男寺党

男寺党（ナムサダン）：朝鮮の旅芸人集団とその芸能

男寺党（ナムサダン）は、朝鮮半島を遊歴した伝統的な旅芸人集団です。数十名からなる大所帯で、各地の村々を巡りながら独自の芸能を披露し、生活を営んでいました。彼らの活動は、単なる芸能活動にとどまらず、村落社会の維持や発展に密接に関わっていたと言えるでしょう。

男寺党の社会構造と生活

李氏朝鮮時代、男寺党は賤民（非自由民）の一種とみなされ、独自の社会構造を形成していました。構成員は男性のみで、正妻を持たず、集団内での結束が強く求められました。活動の中心は農漁村であり、田植えから晩秋にかけて各地を巡業し、冬期は訓練に充てられました。しかし、放浪生活は過酷を極め、食糧が尽きれば春まで離散することもありました。

興味深いのは、男寺党が男性間の同性愛を集団の絆としていた点です。昼は芸能を披露し、夜は若い座員を売春させることで収入を得ていました。そのため、風紀を乱すとして、一つの村での興業は一日限りという制限がありました。女性が中心の集団は「寺党」や「女寺党（ヨサダン）」と呼ばれ、女性による簡単な踊りや売春で生計を立てていました。

男寺党は、団長であるコットゥソェを頂点とした厳格な身分制度を持っていました。コットゥソェは合議によって選出され、組織運営の全権を掌握しました。構成員はコットゥソェ、副団長であるゴルペンイソェ、各分野の長であるトゥンソェ、演技者であるカヨル、見習いのピリ（女装した少年）、元老のジョスンペ、担ぎ人夫であるドンジムクンなどからなっていました。特にピリは数が少なく、激しい争奪戦が繰り広げられたといいます。

後期には少数の女性も参加するようになり、有名なパウドギ（本名：金巖德）は、貧しい農家に生まれながら4歳で男寺党に入り、14歳で一座を率いた逸材でした。

男寺党の芸能

男寺党の芸能は多岐に渡り、それぞれの芸には深い歴史と意味が込められています。代表的な6つの芸能を見ていきましょう。

風物（プンムル・ノリ）: 農楽とも呼ばれるもので、4つの打楽器による演奏とアクロバティックな踊りが特徴です。
皿回し（ポナ）: 皿やたらいを棒などで回転させる芸で、道化役との掛け合いが面白みを増しています。
軽業（サルパン）: 前転、後転などの曲芸です。楽士の伴奏と道化役との掛け合いが織りなされます。
綱渡り（オルム）: 綱の上での歌や踊り、様々な技を披露する芸で、演技の無事と観客の幸福を祈願する儀式が行われていました。
仮面劇（トッペギ）: 儀式性・行事性は薄く、洗練された構成が特徴です。両班と平民の葛藤をテーマにした社会風刺劇が多く見られました。
人形劇（トルミ）: 興業の最後を飾る、韓国で唯一の民俗人形劇です。「コクトゥカクシ・ノルム」や「ホンドンジ・ノルム」などと呼ばれ、支配階級や僧侶などを風刺する内容でした。

これらの芸能には、支配階級への風刺や批判が多く含まれており、民衆に大きな喜びを与えた一方で、支配者層からは敵視されることもありました。

現代の男寺党

朝鮮時代には数多くの男寺党が存在しましたが、1920年頃までには衰退し、現在ではソウルにある伝授会館に保存会が残り、1964年に大韓民国指定重要無形文化財第3号、2009年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されています。日本にも支部があり、伝統芸能の保存と普及に努めています。しかし、2013年には継承者たちの不正行為により、継承の危機に瀕する事態も発生しました。

現代においても男寺党の芸能は、その歴史と文化の重みに照らされながら、多くの人々に感動を与え続けています。その歴史と芸能は、朝鮮半島の豊かな文化の一端を垣間見せてくれる貴重なものです。

もう一度検索