町田保

町田 保（まちだ たもつ）は、1903年（明治36年）8月8日に生まれ、1967年（昭和42年）10月12日に逝去した、昭和期日本の都市計画分野における傑出した人物であり、優れた土木技師でもありました。彼の生涯は、戦前、戦中、そして特に戦後の激動期における日本の都市基盤整備と復興に深く関わっています。

山口県旧徳山市（現在の周南市の一部）で育った町田は、旧制山口高等学校理科甲類を卒業後、1926年（大正15年）に東京帝国大学工学部土木工学科に進み、高度な専門知識を修得しました。大学卒業後は東京市での勤務を経験した後、1928年（昭和3年）に内務省に入省。ここで本格的に都市計画の道へと足を踏み入れます。

内務省では大臣官房都市計画課技手としてキャリアをスタートさせ、その後都市計画地方委員会福岡地方委員会で技師を務めるなど、地方における都市計画の実務にも携わりました。新設された都市計画局や国土局計画課を経て、太平洋戦争中は防空総本部技師として、都市の防空対策に関わる土木技術分野の業務にも従事しました。この時期の経験は、彼の都市計画思想や防災に対する意識に影響を与えたと考えられます。

終戦後、焦土と化した日本の国土を再建するため、町田は戦災復興の中心的な役割を担います。1945年（昭和20年）からは戦災復興院土地局工務課長として、全国の戦災都市における復興都市計画事業の推進に尽力しました。特に、自身の出身地である徳山市の戦災復興計画に際しては、現地に派遣され、技術的な指導や助言を行い、故郷の再生に貢献しました。復興期を過ぎた後も、1963年（昭和38年）には徳山市長の依頼を受け、周南団地建設のための「周南住宅地区開発基本計画」作成調査委員会の委員長に就任するなど、生涯にわたり故郷のまちづくりにも関わり続けました。

1948年（昭和23年）1月に建設院が発足すると、町田は都市局区画整理課長に就任しました。同年7月に建設省へと改組された後も引き続き区画整理課長を務め、戦災復興の重要な手法である土地区画整理事業の推進を指揮しました。1950年（昭和25年）からは都市局復興課長として、全国の罹災都市の復興計画策定に奔走し、都市復興事業の強力な推進役として、戦後日本の国土再建の礎を築き上げました。

彼のキャリアにおける特筆すべき功績の一つに、首都建設委員会での活動があります。1951年（昭和26年）に首都建設委員会が設置されると、町田はその初代事務局長に就任しました。ここでは、戦災からの復興途上にあった東京を、国際都市としての「首都」にふさわしい姿へと再構築するための包括的な計画策定と、その実現に向けた推進に心血を注ぎました。この計画には、後に具体化される首都高速道路網の構想なども含まれており、現代東京の都市構造の骨格を形成する上で極めて重要な役割を果たしました。

1954年（昭和29年）に首都建設委員会事務局長を退任した後は、帝都高速度交通営団（現在の東京メトロ）の理事に就任し、東京における地下鉄網の整備にも深く関わりました。都市の交通問題を解決する上で、地下鉄の重要性を早くから認識していたことがうかがえます。1958年（昭和33年）には技術士登録も行い、専門家としての知見を深めました。

交通営団退職後は、教育者としても活躍の場を移し、日本大学旧工学部（現在の日本大学理工学部）の教授として、次世代の都市計画家や土木技術者の育成に尽力しました。また、都市計画分野の学術振興にも貢献し、日本都市計画学会の副会長を務めた後、1965年（昭和40年）には第7代会長に就任。同年には、同学会が受託した筑波研究学園都市の開発基本計画策定において、委員長として中心的な役割を果たしました。

町田保は、多くの著作や論文を通じて、その都市計画思想や技術的な知見を後世に伝えました。主著には、戦時中の経験に基づいた『土木防空』（1943年）や、退官後の集大成ともいえる『都市計画』（地人書館モダンエンジニアライブラリー、1967年）があります。その他にも、『戦災復興事業の回顧』（新都市、1960年）、米国都市視察の報告、区画整理事業の展望、そして首都建設における地下交通や衛星都市に関する論考など、多岐にわたるテーマで執筆活動を行い、当時の日本の都市計画の課題や方向性を示す貴重な提言を行いました。

町田保は、内務省、戦災復興院、建設省といった国の中枢機関において都市計画行政の実務を長きにわたり主導し、戦災からの復興や首都東京の整備といった国家的な事業を強力に推進しました。さらに、教育者、研究者、学会活動を通じて、理論と実践の両面から日本の都市計画分野の発展に多大な貢献をした人物として、その功績は高く評価されています。

もう一度検索