都市計画地方委員会
都市計画地方委員会は、戦前期の日本において、都市計画の実務を担った機関です。旧内務省の管轄下に置かれ、日本各地の都市計画を指導するとともに、多くの優れた都市計画専門家を育成しました。
この委員会は、大正8年（1919年）に公布された都市計画法に基づき、同年11月27日に「都市計画委員会官制」によって組織されました。翌大正9年（1920年）からは、内務大臣の監督のもと、都市計画に関する事項を調査し審議する機関として、全国の道府県に設置されました。会長は地方長官（一般的には知事）が務めましたが、例外として東京地方委員会では内務次官が会長でした。委員は多様な立場から選ばれ、都市計画法の指定を受けた市の市長や市会議員、関係各庁の高等官、関係府県会議員、市官員（市長以外の職員）、そして学識経験者などから構成されました。旧東京地方委員会では、警視総監や東京府知事も委員に含まれていました。
都市計画地方委員会は、単なる諮問機関や議決機関にとどまらず、調査・研究機関としての機能も兼ね備えていました。この委員会が既存の地方行政体系の枠外に、内務省大臣官房都市計画課の管轄機関として別個に設置されたことは、その大きな特異性です。この特殊な組織形態が採用された背景には、東京市区改正条例時代の経験から、都市計画行政の実働部隊である市町村に権限が不足していたことや、中央省庁の縦割り行政・割拠主義が地方行政にまで弊害をもたらしていたという問題認識がありました。大阪市長を務めた関一や、歴史家・政治学者のチャールズ・ビアードは、当時の都市（特に東京や大阪）が、鉄道、電信、国道、河川といった都市計画の基盤となる多くの分野で、国や府県に権限が留保され、自治権が著しく制限されていた状況を指摘しています。こうした自治権の不足と、それに伴う行政の縦割り・割拠主義が、都市計画推進上の大きな障害となっていました。
内務省内での都市計画部門（当初の都市計画課、後に計画局）は、土木局や地方局などと比較して、その評価が必ずしも高くありませんでした。統合科学としての都市計画の必要性が十分に理解されず、既存の道路法や河川法といった縦割りの法体系の中で土木行政が確立した既得権益や、官僚制に固有の自己保全・保身主義が影響し、都市計画行政が過小評価される傾向がありました。
委員会には事務局が付置され、幹事をはじめ専任の技師、書記、技手などが配置されました。この事務局は、委員会の審議に必要な調査・研究を行う、今日のコンサルタントのような役割を担っていました。形式的には委員会の補助機関でしたが、実質的にはその活動の中核をなし、内務省都市計画課の影響力が強く浸透していました。事務局の幹事は内務大臣が任命し、委員会会長の指揮のもとで庶務を処理しましたが、その重要な職務の一つは、審議案件の趣旨説明であり、これが議論の中心となることが多々ありました。他の職員も内務省の定員として委員会に派遣され、身分は内務省の官吏でした。特に若手の技師は、内務省都市計画課に配属される前に地方委員会で実務経験を積むことが多く、戦後東京復興計画の中心人物となる石川栄耀も、名古屋地方委員会で技師として都市計画の調査研究に従事し、土地区画整理事業による名古屋都市建設などの施策に貢献しました。このように、事務局は内務省都市計画課の力が及ぶ専門家育成機関でもあり、そこに所属する若手研究者の調査・研究が委員会の活動の基礎を支えていました。
都市計画地方委員会は議決機関でもあり、その決定は最終的に内務大臣を介して内閣の認可を得ることで法的効力を持ち、個人だけでなく国や地方自治体をも拘束すると考えられていました。特に特徴的なのは、内務大臣が委員会の決定内容を変更する権限を持たず、委員会決定をそのまま受け入れるか、不認可とするかのいずれかしか選択できなかった点です。これは、委員会外部からの政治的圧力を直接内務大臣に向かわせないという側面もありましたが、同時に委員会の自律性を高め、その中で内務省都市計画課の比重を増幅させることを可能にしました。内務省都市計画課の有力者（池田宏、前田多門、山縣治郎など）が委員として、あるいは会議に派遣員として参加し、審議に加わることで、会議の流れを内務省の意向に沿って進めることが意図されていました。事務局の人事や有力者の派遣といった強力な手段を通じて、内務省都市計画課の主導性が確保され、戦前の都市計画行政の中核を形成したのです。
都市計画地方委員会は、従来の行政系列の枠外に置かれたことで、旧習に煩わされることなく、総合的な都市計画の策定を推進することを可能にしました。内務省、特に大臣官房都市計画課が事務局を遠隔操作し、強力なリーダーシップを発揮することで、日本の地方行政の特性であった割拠主義を都市計画の分野では緩和する方向に向かわせた、戦前期の都市計画行政において極めて重要な役割を果たした組織でした。
設立と組織
この委員会は、大正8年（1919年）に公布された都市計画法に基づき、同年11月27日に「都市計画委員会官制」によって組織されました。翌大正9年（1920年）からは、内務大臣の監督のもと、都市計画に関する事項を調査し審議する機関として、全国の道府県に設置されました。会長は地方長官（一般的には知事）が務めましたが、例外として東京地方委員会では内務次官が会長でした。委員は多様な立場から選ばれ、都市計画法の指定を受けた市の市長や市会議員、関係各庁の高等官、関係府県会議員、市官員（市長以外の職員）、そして学識経験者などから構成されました。旧東京地方委員会では、警視総監や東京府知事も委員に含まれていました。
機能と特異性
都市計画地方委員会は、単なる諮問機関や議決機関にとどまらず、調査・研究機関としての機能も兼ね備えていました。この委員会が既存の地方行政体系の枠外に、内務省大臣官房都市計画課の管轄機関として別個に設置されたことは、その大きな特異性です。この特殊な組織形態が採用された背景には、東京市区改正条例時代の経験から、都市計画行政の実働部隊である市町村に権限が不足していたことや、中央省庁の縦割り行政・割拠主義が地方行政にまで弊害をもたらしていたという問題認識がありました。大阪市長を務めた関一や、歴史家・政治学者のチャールズ・ビアードは、当時の都市（特に東京や大阪）が、鉄道、電信、国道、河川といった都市計画の基盤となる多くの分野で、国や府県に権限が留保され、自治権が著しく制限されていた状況を指摘しています。こうした自治権の不足と、それに伴う行政の縦割り・割拠主義が、都市計画推進上の大きな障害となっていました。
内務省内の位置づけ
内務省内での都市計画部門（当初の都市計画課、後に計画局）は、土木局や地方局などと比較して、その評価が必ずしも高くありませんでした。統合科学としての都市計画の必要性が十分に理解されず、既存の道路法や河川法といった縦割りの法体系の中で土木行政が確立した既得権益や、官僚制に固有の自己保全・保身主義が影響し、都市計画行政が過小評価される傾向がありました。
事務局と専門家育成
委員会には事務局が付置され、幹事をはじめ専任の技師、書記、技手などが配置されました。この事務局は、委員会の審議に必要な調査・研究を行う、今日のコンサルタントのような役割を担っていました。形式的には委員会の補助機関でしたが、実質的にはその活動の中核をなし、内務省都市計画課の影響力が強く浸透していました。事務局の幹事は内務大臣が任命し、委員会会長の指揮のもとで庶務を処理しましたが、その重要な職務の一つは、審議案件の趣旨説明であり、これが議論の中心となることが多々ありました。他の職員も内務省の定員として委員会に派遣され、身分は内務省の官吏でした。特に若手の技師は、内務省都市計画課に配属される前に地方委員会で実務経験を積むことが多く、戦後東京復興計画の中心人物となる石川栄耀も、名古屋地方委員会で技師として都市計画の調査研究に従事し、土地区画整理事業による名古屋都市建設などの施策に貢献しました。このように、事務局は内務省都市計画課の力が及ぶ専門家育成機関でもあり、そこに所属する若手研究者の調査・研究が委員会の活動の基礎を支えていました。
議決機能と内務省の主導
都市計画地方委員会は議決機関でもあり、その決定は最終的に内務大臣を介して内閣の認可を得ることで法的効力を持ち、個人だけでなく国や地方自治体をも拘束すると考えられていました。特に特徴的なのは、内務大臣が委員会の決定内容を変更する権限を持たず、委員会決定をそのまま受け入れるか、不認可とするかのいずれかしか選択できなかった点です。これは、委員会外部からの政治的圧力を直接内務大臣に向かわせないという側面もありましたが、同時に委員会の自律性を高め、その中で内務省都市計画課の比重を増幅させることを可能にしました。内務省都市計画課の有力者（池田宏、前田多門、山縣治郎など）が委員として、あるいは会議に派遣員として参加し、審議に加わることで、会議の流れを内務省の意向に沿って進めることが意図されていました。事務局の人事や有力者の派遣といった強力な手段を通じて、内務省都市計画課の主導性が確保され、戦前の都市計画行政の中核を形成したのです。
まとめ
都市計画地方委員会は、従来の行政系列の枠外に置かれたことで、旧習に煩わされることなく、総合的な都市計画の策定を推進することを可能にしました。内務省、特に大臣官房都市計画課が事務局を遠隔操作し、強力なリーダーシップを発揮することで、日本の地方行政の特性であった割拠主義を都市計画の分野では緩和する方向に向かわせた、戦前期の都市計画行政において極めて重要な役割を果たした組織でした。
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