町田経宇

町田 経宇（まちだ けいう）は、日本の明治から昭和にかけて活躍した陸軍軍人である。慶応元年（1865年）10月22日に誕生し、昭和14年（1939年）1月10日にその生涯を閉じた。最終階級は陸軍大将。薩摩国（現在の鹿児島県）の出身であり、陸軍内では古参の上原閥の一員として知られ、特に長州閥に対して批判的な立場を取った宇都宮太郎とは同志として行動を共にした。

幼少期は宮崎愛次郎と名乗り、薩摩藩士の井尻仲左衛門の次男として生まれた。その後、漢口領事などを務めた薩摩出身の町田実一の養子となり、町田姓を名乗るようになった。司法省法学校で学んだ後、軍人の道を志し、明治20年（1887年）7月に陸軍士官学校（旧9期）を卒業、陸軍少尉に任官した。さらに、明治26年（1893年）11月には陸軍大学校（9期）を卒業し、優れた軍事知識と戦略眼を培った。

軍歴は多岐にわたり、まず日清戦争では歩兵第10旅団副官として出征した。戦後は参謀本部勤務を経て、ウラジオストク駐在やロシア差遣を経験し、ロシア情勢にも通じた。日露戦争においては、第4軍の参謀として再び戦地に赴き、その能力を発揮した。

戦後も重要なポストを歴任した。フランス大使館付武官として海外勤務を経験した後、参謀本部課長、歩兵連隊長などを務めた。大正元年（1912年）3月には陸軍少将に進級し、歩兵旅団長、支那公使館付武官、参謀本部第2部長などを務めた。大正5年（1916年）8月には陸軍中将となり、第11師団長、第4師団長といった要職を経て、大正10年（1921年）6月にはサガレン州派遣軍司令官を務めた。

大正11年（1922年）5月、ついに陸軍大将の階級に昇り、軍事参議官となった。しかし、大正14年（1925年）5月、当時の宇垣一成陸軍大臣による軍縮（宇垣軍縮）の影響を受け、予備役に編入されることになった。その後、昭和10年（1935年）4月に正式に退役した。

町田経宇の人柄や立場を示す有名な逸話がある。大正13年（1924年）10月、金沢で行われた陸軍特別大演習での出来事である。南軍司令官は長州閥の重鎮である田中義一大将、北軍司令官は町田であった。演習後、田中大将は敬意を示すためか、手袋を外して町田大将に握手を求めた。しかし、田中が陸軍大臣候補問題を巡って批判を受けていた時期でもあり、また長州閥を嫌う上原閥に属する町田は、田中と目を合わせることなく、手袋をつけたまま握手に応じたという。これは、先任者である田中大将への儀礼としては異例の態度であったが、当時の陸軍内部における長州閥に対する反感や、町田自身の強い反長州閥の姿勢を示す象徴的なエピソードとして語り継がれている。

町田は、その功績により、正三位、勲一等、功三級などの栄典を授与された。また、外国からの勲章も受章している。親族としては、次男の町田敬二が陸軍大佐となり父の後を追ったほか、娘の石本勝子は陸軍少将の石本五雄に嫁いでいる。

町田経宇は、日清・日露という二つの大きな戦争を経験し、陸軍の近代化、特に情報部門や対ロシア戦略において重要な役割を果たした。薩摩出身者として、長州閥が主導権を握る陸軍内で確固たる地位を築き、反長州閥の旗手の一人としてその存在感を示した。その生涯は、日本の近代陸軍の発展と、内部における複雑な派閥力学の中で生きた一軍人の姿を如実に物語っている。

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