異物巨細胞

異物巨細胞（いぶつきょさいぼう、Foreign Body Giant Cell, FBGC）

異物巨細胞は、生体内に存在する自己由来ではない物質、特に単独のマクロファージでは処理しきれないサイズの大きな異物に対応するために形成される特殊な細胞です。これは、体内で異物を排除しようとする自然免疫システムの一部として機能します。

形成の背景

私たちの体は、外部から侵入した細菌などの小さな異物や、古くなった細胞の断片などを、マクロファージという食細胞が取り込んで分解することで処理しています。しかし、インプラント材や手術で残った縫合糸など、比較的大きく（およそ5マイクロメートル以上）、かつ体内で容易に分解されない非生体由来の異物が存在する場合、マクロファージ単独ではこれらを効率的に処理することができません。このような状況が続くと、その部位では炎症が長期間にわたって持続します。

慢性的な炎症状態が続くと、炎症に関わる様々な情報伝達物質（サイトカイン）が分泌されます。これらのサイトカイン、特に特定の種類の刺激によって、周囲に集まってきた複数のマクロファージが互いに融合し始めます。この融合プロセスを経て誕生するのが、異物巨細胞なのです。

細胞の構造的特徴

異物巨細胞は、その名の通り、通常のマクロファージよりもはるかに大きな細胞です。複数のマクロファージが合体しているため、融合したマクロファージの数に応じて細胞の大きさは多様であり、多い場合には数十個もの細胞核を含みます。これらの核は、細胞質の中央付近に集まり、互いに重なり合っている様子が観察されます。細胞質はよく発達しており、異物処理に関わる機能が活発であることを示唆しています。また、細胞の表面にはインテグリンα3β1のような特定の接着分子が存在します。

多様な機能

異物巨細胞は、生体内の大きな異物に対して複数の重要な機能を果たします。

1. 異物の貪食と分解促進: 単独のマクロファージでは取り込めないサイズの大きな異物に対しても、異物巨細胞は細胞全体で異物を包み込むようにして取り込むことが可能になります。また、細胞が異物の表面に接着すると、その間に活性酸素やマトリックスメタロプロテアーゼ（MMP）のような様々な分解酵素を放出します。これらの物質は、異物そのものを直接的に分解したり、異物の表面構造を変化させたりすることで、その後の処理を促進する役割を果たします。

2. 炎症反応の調節: 異物に対するマクロファージの初期応答は炎症を促進する傾向があり、インターロイキン(IL)-6やTNF-αといった炎症性サイトカインを産生します。しかし、マクロファージが異物巨細胞へと融合すると、これらの炎症促進性サイトカインの産生は抑制されると考えられています。代わりに、異物巨細胞はIL-10やIL-1raといった抗炎症性のサイトカインを産生するようになります。このサイトカイン産生のスイッチングによって、異物巨細胞は長期化した慢性炎症を鎮静化させる方向に作用する側面を持つと考えられています。

3. 組織修復と線維化の促進: 一方で、異物巨細胞は組織の修復やリモデリングに関わる成長因子、例えばTGF-β（形質転換増殖因子ベータ）やPDGF（血小板由来増殖因子）なども産生することが知られています。これらの成長因子は、線維芽細胞、特に筋線維芽細胞という細胞を活性化させ、コラーゲンなどの細胞外マトリックス成分の産生を促進します。その結果、異物の周囲に緻密な線維性の組織が形成され、異物を体内の他の組織から隔離する「被包化（encapsulation）」と呼ばれるプロセスが進行します。これは、異物が周囲組織に与える影響を最小限に抑えるための生体防御機構の一つであり、異物巨細胞はこの過程にも寄与していると考えられます。

形成に関わる分子メカニズム

異物巨細胞へのマクロファージの融合は、特定の条件下で促進されます。培養細胞を用いた研究では、IL-4やIL-13といったサイトカインや、フィブロネクチン、ビトロネクチンといった細胞外マトリックスを構成する接着タンパク質が融合を誘導することが示されています。逆に、オステオポンチンというタンパク質は融合を抑制する作用を持つことが知られています。

マクロファージが融合を開始する際には、細胞表面の分子であるCD44やCD47の発現が増加し、それぞれが細胞間の接着や多核化に寄与すると考えられています。また、細胞融合のプロセスには、少なくとも一つのマクロファージにおいて、DC-STAMP（Dendritic cell-specific transmembrane protein）と呼ばれる膜タンパク質が必須であることが示されています。これらの分子機構の解明は、異物巨細胞の形成を制御する手がかりとなります。

まとめ

異物巨細胞は、単独では対処できない大きな異物に対する生体の重要な防御応答として形成される多核の細胞です。異物の処理や分解、慢性炎症の調節、そして組織の線維化による異物の隔離など、多様な機能を通じて、異物が生体に与える影響を制御しようと働いています。その形成メカニズムには複数の分子が関与しており、今後の研究によってその働きや制御法がより詳細に明らかになることが期待されます。

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