癩王のテラス

『癩王のテラス』について

作品概要

『癩王のテラス』は、三島由紀夫の最後の戯曲で、全3幕から構成されています。この作品は、三島文学の核心的なテーマを色濃く反映した重要なものであり、病に侵されたカンボジアの王・ジャヤーヴァルマン7世が、偉大なる寺院バイヨンを建立する過程での愛や夢を描いています。月の王朝の衰退背景のもと、健やかな精神と崩壊していく肉体を対照的に描写し、壮大なロマンと美を表現しているのです。

初演と発表

本作は1969年7月4日に帝国劇場で初演され、北大路欣也を主演とする豪華なキャストにより上演されました。その後、同年6月に雑誌『海』に掲載され、さらに中央公論社から単行本としても発行されました。文庫版は1975年に刊行されましたが、出版禁止となり、一時絶版となりました。現在は2002年の全集においてのみ読めます。

あらすじ

第1幕

物語はカンボジアの歴史的背景を持つ時代、西暦12世紀末から始まります。若き王・ジャヤーヴァルマン7世は、素晴らしい美貌と勇猛さを持つ戦士でした。スク住民との戦争に勝利した王は、廃れてしまった王都の再建を決意し、人民に施しを行い、大規模な公共事業を計画します。しかし、王に対する心理的な圧迫や病気の兆候が彼の側近や宰相たちの不安をいやがうえにも募らせます。

第2幕

1年後、王の心を込めたバイヨン寺院が建設中ですが、王の健康は次第に deteriorate し、民の間に癩病の広がりが見られます。宰相は王を排除する計画を画策し、さらには王太后が息子である王をも暗殺しようとします。一方で第2王妃・ラージェンドラデーヴィは、王を守ろうとして不安な日々を送ります。

第3幕

時が経つにつれ、バイヨン寺院は完成を迎えますが、王自身は肉体的に病に苦しみ、もはや人前には出られない状態に。視力も失い、死が近づいています。王太后はカンボジアを離れ、王は第2夫人と共に若い棟梁の結婚式を祝いますが、やがて彼の側には第2夫人だけが残ります。王はバイヨン寺院を一望できる場所で自らの死を受け入れる体験をし、最後に幻の美しい若き自分の姿と対話することになります。

作品の背景と評価

三島が『癩王のテラス』を執筆するきっかけは、1965年10月のカンボジア旅行中にありました。皇帝が癩に侵されながらも寺院を建設するという変則的な状況が心に響き、この作品の核を成すテーマを形成しました。また、三島自身の戦後の心理状態や、芸術の持つ宿命と栄光に重ねて描かれています。

『癩王のテラス』は三島作品の中でも特に評価され、華やかでエキゾチックな美を持ちながらも、深い悲しみや繊細さをも併せ持つ戯曲です。その象徴的なラストシーンにおける肉体と精神の対立は、永遠のテーマにまで広がっています。日本の文学界においても、今なお多くの論考がなされ続けています。

もう一度検索