バイヨン

バイヨンは、クメール王国の古都アンコールに位置する、ヒンドゥー教と仏教が混淆した独特な寺院遺跡です。アンコール・トムの中央部に位置し、正方形の城壁に囲まれています。一般には「バイヨン」として知られていますが、クメール語の発音では「バヨン」に近いとされています。「バ」は「美しい」、「ヨン」は「塔」を意味します。

バイヨンの特徴

バイヨン最大の特徴は、中央祠堂をはじめとする各塔に彫られた四面像です。これらの人面像は、一般的に観世菩薩を模していると考えられていますが、戦士の冠を被っていることから、ジャヤーヴァルマン7世を神格化したものという説も存在します。21世紀に入り、3次元CG解析によりヒンドゥー教の神々を表しているという説も提唱されました。これらの像は「クメールの微笑み」として知られ、見る者を魅了します。

また、バイヨンは他のアンコール遺跡と同様に、疑似アーチ構造を多用したクメール建築の特徴を備えています。建築全体は三層構造で、高さ約43メートルの中央祠堂を中心に、二重の回廊が配置されています。およそ50の塔には、117個の人面像が残っています（異説あり）。人面像の高さは1.7～2.2メートルと個体差があります。

各層の構造

第一層

第一層には、東西南北に門があり、特に東門付近には両側に池のあるテラスが設けられています。第一回廊には、アンコール・ワットにも見られる乳海攪拌のレリーフがありますが、保存状態はあまり良くありません。

第二回廊（外回廊）は約160メートル×120メートルで、正面は東を向いています。ここには他のアンコール遺跡とは異なる独特なレリーフが残っており、チャンパとの戦争の様子、建設当時の市場や狩りの様子などが描かれています。これらのレリーフは、当時の庶民の生活を窺い知る上で貴重な資料となっています。

第二層

第二層には16の塔があり、各塔には観音菩薩と思われる四面像が彫られています。第二層の回廊には、ヒンドゥー教色の強いレリーフがデザインされています。

第三層

第三層はテラスとなっており、ここにも観音菩薩と思われる四面像が各塔に彫られています。中央には、かつてシヴァリンガが置かれていたとされていますが、後世に除去され、現在は上座部[[仏教]]の像が置かれています。

歴史

バイヨンは、アンコール王朝の中興の祖とされるジャヤーヴァルマン7世が、チャンパに対する戦勝を記念して12世紀末頃から建設に着手したと考えられています。石の積み方や材質の違いから、複数の王によって徐々に建設されたと推測されています。

当初は大乗仏教寺院として建立されましたが、後にアンコール王朝にヒンドゥー教が流入すると、寺院全体がヒンドゥー化しました。建造物から仏像を取り除こうとした形跡や、ヒンドゥーの神像が残っていることからも、この変化を窺い知ることができます。

1933年には、フランス極東学院の調査によって、中央祠堂から仏像が発見されました。

バイヨンは、その独特な建築様式と歴史的背景から、アンコール遺跡群の中でも特に重要な遺跡の一つとされています。

脚注

関連項目の記述はありません。

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