白川郷・五箇山の合掌造り集落

白川郷と五箇山は、飛騨地方の庄川流域に位置する歴史的な地域です。この地域には、独特な建築様式である「合掌造り」の家屋が立ち並ぶ集落が点在しており、1995年にユネスコの世界遺産に登録されました。合掌造りは、掌を合わせたような形をした急勾配の茅葺き屋根が特徴で、豪雪地帯の厳しい自然環境に適応した構造となっています。

歴史的背景

白川郷は庄川の上流域、五箇山は中流域にあたります。これらの地域は、白山信仰の修験者や平家の落人伝説など、歴史的な背景も深く、12世紀半ばには白川郷、16世紀には五箇山という地名が確認されています。合掌造りの起源は定かではありませんが、17世紀末にはその原型ができたと考えられています。

江戸時代、白川郷は高山藩領や照蓮寺領、五箇山は加賀藩領となり、五箇山では塩硝生産が盛んに行われました。塩硝は火薬の原料となる硝酸カリウムで、この地域では雑草や蚕の糞を利用した独自の製法が用いられていました。この地域は稲作には不向きな土地柄であったため、養蚕などの家内工業が発達し、合掌造りの家屋も、これらの産業に合わせて大型化、多層化していったと考えられています。

合掌造りの特徴

合掌造りは、急勾配の切妻造りの茅葺き屋根が特徴です。屋根の角度は45度から60度と急で、雪下ろしの負担を軽減し、雨水の排水を良くする工夫が施されています。屋根裏は2層から3層の空間があり、養蚕などに利用されていました。屋根の妻は南北を向き、日当たりを良くすることで屋根の乾燥を促進し、夏には風通しを良くする効果もあります。釘をほとんど使わず、縄で固定された屋根組は、雪の重さや風の強さに対して柔軟性があり、耐久性を高めています。

合掌造りの家屋は、大家族制を支える役割も担っていました。かつては、長男のみが結婚を許され、複数の親族や使用人が一つの家に暮らしていました。集落全体で協力し合い、農業や家内工業を行っていたのです。30年から40年に一度行われる大規模な葺き替えは、近隣住民が「組」という互助組織を作り、「結」と呼ばれる協力体制のもとで行われます。

保存に向けた動き

白川郷と五箇山は、豪雪地帯という地理的な条件から、開発が遅れ、結果的に合掌造りが残ることになりました。しかし、第二次世界大戦後にはダム建設や産業の衰退、人口流出によって、多くの家屋が廃屋となりました。この状況を憂慮した地域住民は、文化遺産保存の動きを強め、1970年代には集落の保存活動が本格化しました。特に、荻町集落では「売らない、貸さない、壊さない」の三原則を掲げ、保存活動が行われています。

1995年、白川郷・五箇山の合掌造り集落は世界遺産に登録されました。世界遺産に登録された理由としては、合掌造りの建築様式が他に類を見ないこと、それが地域の文化と生活に深く根ざしていることが挙げられています。また、これらの集落が日本の急速な近代化の中でも残存し、長い歴史を物語る精神的・物質的な証拠であることも評価されました。

世界遺産登録後

世界遺産登録後、白川郷・五箇山の合掌造り集落は観光地として発展しました。しかし、観光客の増加は、地域社会に様々な問題を引き起こしています。住民のプライバシー侵害や、交通渋滞、景観の悪化などが指摘されており、伝統的な生活と観光のバランスを取ることが課題となっています。

登録対象

世界遺産の登録対象となっているのは、以下の3つの集落です。

荻町集落（白川郷）: 合掌造り家屋が最も多く残る集落で、規模も最大です。江戸時代末期から明治時代末期に建てられた家屋が中心で、南北に整然と並ぶ美しい景観が特徴です。
相倉集落（五箇山）: 20棟の合掌造り家屋が残る集落です。妻入りの家屋が多く、白川郷とは異なる景観が見られます。
菅沼集落（五箇山）: 9棟の合掌造り家屋が残る小規模な集落です。住居区域と農業区域が分けられている点が特徴です。

課題

現在、合掌造り集落は、後継者不足と観光地化という二つの大きな課題に直面しています。合掌造りでない家屋が増加し、伝統的な「結」が維持できなくなってきていることや、観光客の増加によって、住民の生活や景観が脅かされていることが問題となっています。これらの課題を克服し、貴重な文化遺産を未来に継承していくための努力が続けられています。

交通アクセス

白川郷・五箇山へのアクセスは、主に自動車やバスを利用します。

自動車: 東海北陸道を利用し、白川郷ICまたは五箇山ICで降ります。国道156号線沿いに集落があります。
* バス: 高山、金沢、富山、名古屋などから高速バスが運行しています。

まとめ

白川郷・五箇山の合掌造り集落は、豪雪地帯の厳しい自然環境に適応した独特な建築様式と、地域の人々が守り続けてきた伝統的な生活様式が、現代に息づく貴重な場所です。その文化的価値は世界的に認められ、世界遺産に登録されています。しかし、観光地化による課題も多く、伝統と観光の調和をどのように実現していくかが、今後の大きな課題と言えるでしょう。

もう一度検索