結

結（ゆい）とは

結（ゆい）とは、主に小さな集落や自治単位で行われる共同作業の制度です。一人では困難な作業を、集落の住民が互いに助け合い、協力することで成り立っています。この制度は、相互扶助の精神に基づき、人々の生活を支えてきました。

結の概要

結は、労働力を対等に交換し合い、農作業や住居の維持など、生活に必要な営みを行うための共同作業、またはそのための相互扶助組織を指します。特に、社会基盤の維持に関わるものは「自普請」と呼ばれ、労力、資材、資金を提供し合う互助活動全体を意味します。これは、地縁に基づく「近所付き合い」の一形態と見なすことができ、古くは「十分の付き合い」や隣組も結の一種と言えます。

広義には、無尽や消防団なども、資金や災害対策の労役に限った結と解釈できます。

日本における結

日本では、田植えや屋根葺きなど、一時的に多大な労力を必要とする際に共同で行われる労働形態を「ゆい」と呼びます。「もやい（催合）」と称されることもありますが、厳密には「もやい」が「共にあるものが共に事を行う」のに対し、「ゆい」は「共にはないが、互いの約束に基づいて共に事を行う」という違いがあります。

歴史的には、鎌倉時代にはすでに「ゆひもやとはで、早苗とりてん」という歌が見られることから、中世以前に遡る民俗であると考えられています。

中部地方の合掌集落における結

富山県の五箇山や岐阜県の白川郷などの合掌集落では、現在でも合掌造りの茅葺屋根の葺き替えに結の制度が残っています。葺き替えは約30〜40年に一度行われ、莫大な労力と費用がかかりますが、これらは原則として無報酬で行われます。

葺き替えの手順は以下の通りです。

1. 作業の3年以上前から準備を開始
2. 屋根の面積から必要な茅の量と人員を概算
3. 作業の日取りを決定し、集落を回って手伝いを依頼
4. 事前に必要な茅を刈って保存
5. 役割分担を決定（茅を集める人、運ぶ人、選別する人、道具を準備する人など）

これらの作業は主に男性が行い、女性は作業者の食事や休憩時の菓子、完成祝いの手土産などを準備します。

屋根の両面を同時に葺き替えることはほとんどなく、片面のみを2日間で仕上げます。1日に200〜300人の人手が必要となり、100人以上が屋根に登るさまは壮観です。

近年では、過疎化や第一次産業の衰退、高齢化などにより、結の維持が難しくなっています。しかし、ナショナル・トラストや一般のボランティアが各地から集まり、葺き替え作業を共同で行うようになっています。

白川郷では、結を行う組織を「合力（コーリャク）」と呼び、結の範囲は屋根の葺き替えに限らず、代掻き、田植え、稲刈り、草取り、薪割り、冠婚葬祭など、生活全般に及びます。

北安曇地方の災害復旧における結

長野県の大町市や安曇野地方北部では、集落の家々が近接しているため、火災が発生すると集落全体に延焼する恐れがありました。そのため、集落ごとに異なる建築部材をストックしておき、火災に遭った家を再建する際には、人々が集まって部材を持ち寄り、短期間で家を建て上げるといった大規模な結が組まれていました。

沖縄における結（ゆいまーる）

沖縄では、「ゆいまーる」または「いーまーる」と呼ばれる結の習慣が残っています。「ゆい」は「共同、協働」を意味し、「まーる」は「回る」の訛りで順番を表します。したがって、ゆいまーるとは「相互扶助」を順番に、かつ平等に行うことを意味します。

ゆいまーるも見返りを期待せず、例えばサトウキビ畑の収穫の際に、5人でゆいまーるが組織された場合、5人が一致団結して一件ずつ順番に全てのサトウキビを刈ります。この組織を「結い組」と呼びますが、リーダーのいないインフォーマルなグループです。

ゆいまーるは農作業に限らず、家屋や墓地の建造にも及びます。また、沖縄では金銭的な相互扶助の習慣も根強く残っており、ほとんどの県民が何らかの模合のメンバーとなっています。

ゆいまーるを組む人々は、親戚、近隣住民、友人など様々ですが、ゆいまーるを通して家族同様の長い付き合いをすることになります。

結と同様に、ゆいまーるも近年では消失しつつありますが、現代の生産形態や社会生活の進歩が、旧来の農業時代のゆいまーるを必要としなくなったことが要因として挙げられます。

東アジアの相互扶助

かつて東アジアにも、結と同じような共同作業の制度が存在しました。ここでは朝鮮の制度を紹介します。

朝鮮のプマシとトゥレ

朝鮮には、プマシやトゥレと呼ばれる助け合いの制度が存在していました。プマシが比較的小規模で個人的な関係であるのに対し、トゥレは村の成人男子の集団ほぼ全員で組織されるという点で性格を異にします。

両班を頂点とするタテ社会であった朝鮮において、プマシ・トゥレといった組織は平等なヨコ社会でした。プマシ・トゥレは第二次世界大戦後まで存在しましたが、農業の近代化と共に姿を消しました。

プマシ

プマシは、個人対個人、または家族対家族との契約といった私的な、比較的小規模な関係で構成されます。プマシによる相互扶助は必ずしも同質ではなく、作業量も等量とは限りません。

プマシは作業の規模によっては、複数の家族単位で行われました。農繁期は一家族の労働力では追いつかないため、複数の家族が共同でそれぞれの田畑の作業をこなしていきます。プマシの期間中は、依頼した者が食事や必要な資材を負担し、夕食には酒も振る舞いました。

トゥレ

プマシが私的な関係であるのに対して、トゥレは集落の住民全体の農作業や公共事業といった公的な共同作業です。トゥレは、新羅の郷歌に謡われていることからも、その起源を三国時代にまで遡ることができますが、朝鮮全域に普及するのは李氏朝鮮後期まで待つことになります。

トゥレは主に若者（20〜35歳）を中心に、65歳までの男性のみで構成されます。1戸から1人動員されるのが原則です。

トゥレは、田植えから稲刈り・脱穀までの一連の農作業や灌漑事業、道路整備といった公共事業を集団の力で相互扶助で行い、集落の住民は積極的にこれを活用しました。特に老人や弱者など非力な者達にとってのメリットは計り知れません。

トゥレは単に農作業に限らず、冠婚葬祭や、農楽、村祭の運営など、村民の生活全般に関わりました。特に田植えや稲の刈り入れなどの集団作業時の意欲を鼓舞する大がかりな農楽戯や、豊作祈願と村の安泰を祈念するための村祭などは、トゥレのもう一つの側面を表しています。一部地方においては農楽を「トゥレ戯」と呼びます。

もう一度検索