白州蒸溜所

白州蒸溜所：森に抱かれたウイスキーの聖地

山梨県北杜市の白州町、南アルプス甲斐駒ケ岳のふもとに位置する白州蒸溜所。サントリーが山崎蒸溜所に次いで1973年に設立した、日本を代表するジャパニーズウイスキーの蒸留所です。周囲を豊かな森林に囲まれたその佇まいから、「森の蒸留所」とも呼ばれています。

歴史：ウイスキーブームと佐治敬三の理想

1973年、山崎蒸溜所創業50周年という節目の年に、サントリー二代目社長・佐治敬三の強い意志によって白州蒸溜所は誕生しました。背景には、当時隆盛を極めていたウイスキーブームがあり、増大する需要に応えるための原酒生産が急務でした。

佐治敬三は、山崎とは異なる環境で、より多様なモルト原酒を造り出すことを目指しました。白州の標高708メートルという高地、年間を通して山崎より5℃低い冷涼な気候、そして花崗岩層を濾過した軟水という恵まれた自然条件が、その理想に最適だと判断されたのです。

白州蒸溜所の敷地面積は約82万5,000平方メートル。日本のウイスキー蒸溜所としては最大規模を誇り、その83%は自然保護のために手つかずの森林として保たれています。

生産スタイルの変遷：大量生産から多様性への転換

当初の白州蒸留所（白州1）は、12基のポットスチルを備え、均一な原酒を大量生産するスタイルでした。しかし、1980年代に入ると、サントリーの方針は変化します。多様な原酒を生産し、より複雑で繊細なウイスキー造りを目指すようになったのです。

1981年には新たな蒸留棟（白州3）が建設されました。ここでは、サイズや形状の異なる小型のポットスチルが導入され、多様な原酒の製造が可能になりました。これは、従来の大量生産設備（白州1、2）で造られた原酒が、佐治敬三の理想とするウイスキーの風味に満たなかったこと、そしてサントリーオールドの売上低迷にも繋がったという分析も存在します。

その後も設備の改修や増設が繰り返され、現在の白州蒸溜所は、多様なポットスチル16基を備え、世界でも類を見ない多様な原酒を生み出す体制を整えています。2022年末にはビジターセンターも全面改修され、より多くの人が白州蒸溜所の魅力に触れられるようになりました。

製造工程：厳選された素材と伝統技法

白州では、イギリス産の大麦麦芽を使用。ピートの含有量はノンピートから40ppmまで様々です。仕込み水は、甲斐駒ケ岳の伏流水である軟水を使用しており、その水質は花崗岩層による天然の濾過作用によって、非常に高い品質を保っています。発酵には、7万5,000リットルの大型木製ウォッシュバックを使用。木製であることは、乳酸菌の働きによるクリーミーな香味に繋がるとされています。

蒸留工程では、形状やサイズが異なる16基のポットスチルを使い分け、多様な原酒を製造しています。初留器と再留器の組み合わせ、加熱方法、冷却装置などもそれぞれ異なっており、この多様な設備こそが白州の個性を生み出しているのです。

熟成には、アメリカンホワイトオークのバーボン樽やホグズヘッド樽が主に使用され、敷地内の熟成庫で大切に眠らされます。熟成庫はラック式で18棟あり、膨大な数の樽が保管されています。また、白州蒸溜所内にはクーパレッジ（製樽工場）があり、樽の製造やメンテナンスも自社で行っています。

2010年には、グレーンウイスキー製造設備も導入。特注のカフェ式連続蒸留器により、多様な原料や酵母、アルコール度数に対応できるようになりました。これは、様々なフレーバーの原酒を生み出し、従来のグレーンウイスキーでは実現できなかった、原料の風味を強く反映させることを可能にしました。

製品：シングルモルトとブレンデッドの両立

白州蒸溜所は、シングルモルトウイスキー「白州」シリーズ（12年、18年、25年、ノンエイジ）を世に送り出してきました。そのフレッシュでフルーティーな味わいは、世界中のウイスキー愛好家から高い評価を得ています。また、これらの原酒は「響」などのサントリーのブレンデッドウイスキーにも使用されており、その複雑で奥深い味わいを支えています。

付属施設：自然とウイスキーの共存

白州蒸溜所周辺の森林は、60種以上の野鳥が生息するバードサンクチュアリとして保護されています。また、1979年にはウイスキー博物館がオープンし、ウイスキーの歴史や文化を学ぶことができます。

白州蒸溜所は、自然と技術の融合、伝統と革新の調和によって、類まれなウイスキーを生み出し続けています。その魅力は、ウイスキーそのものだけでなく、森に抱かれたその環境、そしてウイスキー造りへの情熱にもあります。

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