白昼夢 (江戸川乱歩)

概要

『白昼夢』とは、1925年に江戸川乱歩によって発表された掌編小説であり、ショートショートの形式を持つ犯罪小説です。元々は博文館の探偵小説雑誌『新青年』の1925年7月号に掲載され、全6作で構成される連載の一部として位置づけられています。雑誌掲載時には『小品二篇 その一 白昼夢』というタイトルで発表され、後に現在の名称に改題されました。書籍としての初刊は1926年1月に『創作探偵小説集第二巻「屋根裏の散歩者」』の中に収められました。

執筆背景

1925年、江戸川乱歩は専業作家としての道を選びました。この年の初め、彼は編集長の森下雨村の企画により、毎月短編小説を発表することになりました。最初の作品『D坂の殺人事件』から始まりましたが、次第に創作に困難を感じるようになりました。特に、2作目の『心理試験』では思考が停滞し、また3作目や5作目に至っては自ら駄作と呼ぶほどの自信のなさに襲われました。
このため、彼は一度休載を挟み、『指環』と『白昼夢』の二つの掌編を同時に執筆することになります。乱歩は、殺人事件や屍蝋についての興味を背景に持っていましたが、最終的にはそのアイデアがまとまらず、作品は狂気と幻想を描く小説となりました。彼はこの期間を振り返って、『屋根裏の散歩者』や『人間椅子』と合わせて、彼を純粋な推理小説から距離を置かせる要因となった初期の一作であると記しています。

あらすじ

物語は、独白形式で進行します。晩春の蒸し暑い午後、語り手である「私」が通りを歩いていると、ある男が群衆の注目を集めて演説をしているのに出くわします。この男は身なりがよく、40歳前後と推測される姿をしていますが、話している内容は衝撃的でした。彼は浮気をしていた妻を殺し、遺体を長い間水に浸して屍蝋化したと告白します。
次第に興味を持った「私」は、その発言の真意に迫ろうと群衆に混ざります。男は自身が殺人者であることを自嘲的に話しつつ、「隠した死体は俺の店の前にあるから見てみろ」と言い放ちます。「私」はその発言に疑念を抱きつつも、後ろを振り返ると、薬屋が目に飛び込んできました。男の話の発信源である薬屋の主人であることを理解した「私」は、店舗の奥にあるガラスケースを見つめます。

そのケースの中には人体模型が飾られており、「私」は一瞬何か異様なものを感じます。普通の蝋細工の人形に見えるその模型ですが、詳細に観察すると本物の死体の特徴が現れます。肉の奥から見える黒ずんだ皮膚や産毛によって、この人形が単なる職人技ではないことに気が付くのです。「私」は驚きと恐怖に駆られ、店を飛び出しますが、周囲の人々は男の言葉を真剣に受け止めておらず、警官までもが笑ってその話を聞いている光景に直面します。

収録

この短編小説は、後に光文社文庫『江戸川乱歩全集第1巻 屋根裏の散歩者』、岩波文庫『江戸川乱歩短篇集』、文春文庫『江戸川乱歩傑作選 蟲』、新潮文庫『江戸川乱歩名作選』などに収められることとなりました。

結論

『白昼夢』は、江戸川乱歩独特の幻想的な筆致と、潜む人間の狂気を描いた作品であり、今なお多くの読者に読み継がれています。

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