犯罪小説

犯罪小説：謎解きとスリルの歴史

犯罪小説、あるいはクライム・ノベルは、犯罪とその捜査を主題とした物語です。殺人事件を解明する探偵が登場するものが多く、推理小説、法廷ドラマ、ハードボイルドといった様々な要素を包含しています。謎解きとサスペンスが物語を効果的に盛り上げます。

歴史：古今東西の犯罪小説

犯罪小説の起源は古く、『千夜一夜物語』の中にその要素を見つけることができます。「三つの林檎」など、カリフの命令で犯人を追う物語は、現代のフーダニットミステリを思わせます。その他にも、複数の探偵が登場し、手がかりを提示する物語や、サスペンス・コメディ風の法廷ドラマも存在します。

現代的な犯罪小説としては、E.T.A. ホフマンの『スキュデリ嬢』(1819年)などが挙げられます。19世紀には、E.T.A. ホフマンや、Thomas Skinner Sturr、Steen Steensen Blicher、Letitia Elizabeth Landonといった作家が犯罪を題材とした作品を発表しました。

しかし、犯罪小説を決定的に確立させたのは、エドガー・アラン・ポーです。C・オーギュスト・デュパンを主人公とする「モルグ街の殺人」、「マリー・ロジェの謎」、「盗まれた手紙」は、後の探偵小説の原型となりました。デュパンは、アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズの先駆けであり、彼の無名の助手はワトスン博士の原型と言えるでしょう。

フランスでは、フランソワ・ヴィドックの『ヴィドック回想録』(1827年)が犯罪小説の普及に貢献しました。その後、ウージェーヌ・シューやポンソン・デュ・テライルといった作家が、犯罪を題材とした作品を発表し人気を博しました。ウィルキー・コリンズやエミール・ガボリオも、この時代の重要な作家です。ガボリオは、科学的で体系的な推理の手法を確立したと言われています。

密室殺人というテーマの発展も、犯罪小説の歴史において重要な出来事です。シャーロック・ホームズシリーズは、このジャンルの発展に大きな影響を与えました。また、ポール・フェヴァルの「黒服」シリーズも人気を博し、ファーガス・ヒュームの『二輪馬車の秘密』は19世紀におけるベストセラーとなりました。

19世紀後半には、イギリスとアメリカで出版メディアが発達し、大衆的な犯罪小説の普及に繋がりました。『ストランド・マガジン』や『McClure's』、『Harper's Magazine』といった雑誌が、犯罪小説の連載や掲載に貢献しました。特に、シャーロック・ホームズシリーズは、大西洋の両岸で爆発的な人気を博しました。

イタリアでは、イギリスやアメリカの翻訳作品やオリジナル作品が「Libri gialli」として出版されました。第二次世界大戦中は禁止されましたが、戦後はアメリカン・ハードボイルドの影響を受けて再び人気を博しました。レオナルド・シャーシャ、ウンベルト・エーコ、カルロ・エミリオ・ガッダといった作家は、推理小説のフォーマットを用いたアンチ推理小説やポストモダン小説を発表しました。

中国では、1890年代から外国の作品の翻訳が始まり、1910年代には程小青がシャーロック・ホームズ的な探偵小説を発表しました。

分野：多様なサブジャンル

犯罪小説は、様々なサブジャンルに分類されます。

推理小説: コージー・ミステリ、フーダニット、密室殺人など
歴史ミステリ: 歴史的事実を背景にした物語
アメリカン・ハードボイルド派: 性や暴力の描写が特徴的で、リアリズムとカタルシスがない解決が特徴
警察小説: 警察官が主人公の物語。エド・マクベインの「87分署シリーズ」など
法医学犯罪小説: 監察医や病理学者の視点から描かれる物語。パトリシア・コーンウェルが有名。
法廷ドラマ: 弁護士が主人公の物語。E・S・ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズなど
スパイ小説: 諜報員が主人公の物語。イアン・フレミングのジェームズ・ボンドシリーズなど
ケイパー・ストーリー: 犯罪者の視点から描かれる物語
サイコロジカルスリラー: 心理的な葛藤が中心の物語
犯罪スリラー: 犯罪に巻き込まれた被害者視点の物語

偽名の作者：ペンネームの使用

犯罪小説においては、本名ではなくペンネームを使用する作家も少なくありません。アーサー・アレキサンダー・ゴードン・クラーク（Cyril Hare）、ジュリアン・バーンズ（Dan Kavanagh）、ルース・レンデル（Barbara Vine）、ジョン・ディクスン・カー（Carter Dickson）、エヴァン・ハンター（Ed McBain）などが、ペンネームで作品を発表しています。

出版状況：古典とベストセラー、そしてリバイバル

アガサ・クリスティは、犯罪小説における古典的な作家の1人です。「ミステリの女王」と呼ばれ、『そして誰もいなくなった』は世界で最も売れた推理小説の一つです。

近年では、過去の作品が再刊されることも多くなっています。ペンギン・ブックス、パン・ブックス、キャノンゲート・ブックス、大英図書館などは、古典的な犯罪小説を再刊行するシリーズを展開しています。また、映画化された作品が注目されることもあります。

犯罪小説は、時代や文化を超えて、人々の関心を惹きつけてやまないジャンルです。謎解き、サスペンス、そして人間の心理描写といった要素が複雑に絡み合い、読者に深い読み応えを提供し続けています。

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