白根大凧合戦

白根大凧合戦（しろねおおたこがっせん）は、新潟県新潟市南区の白根地区と西白根地区（旧味方村）の間を流れる信濃川の分流、中ノ口川を舞台に、毎年6月上旬に繰り広げられる日本の伝統的な凧の合戦です。

歴史

この勇壮な祭りの起源は古く、元文2年（1737年）に始まったと伝えられています。いくつかの説がありますが、中でも語り継がれているのは、江戸時代、白根側に住む人々が殿様から拝領した凧を揚げたところ、対岸の家屋に落下して屋根を損壊させてしまったという出来事です。これに腹を立てた対岸の住民が、仕返しのためにさらに巨大な凧を作り、わざと落として屋根を壊したのが合戦の始まり、という説が最も有名です。しかし、これらの起源に関する説は、残念ながら当時の文献には記録されていません。

概要

白根大凧合戦は、毎年6月の第1木曜日から翌週の月曜日まで、5日間にわたって開催されます。祭りは原則として晴天時に行われますが、大凧を揚げるには単に晴れているだけでなく、「下風」と呼ばれる川下から川上へ向かって吹く適度な強さの風（北風）が不可欠です。これは、大凧の骨組みに使用される竹材の選定、加工方法、組み立て、そして凧の姿勢や動きを制御する「鼻緒」と呼ばれる細い綱の長さなどが、この理想的な風に合わせて綿密に調整されているためです。風が弱すぎたり強すぎたりすると、迫力ある合戦が行われないこともあります。

合戦はまず、東軍にあたる白根側が大凧を揚げることから始まります。東軍の凧は、綱を引くと主に横方向に動くように作られており、揚がった後は川の中ほど、比較的低い位置に構えます。次に、西軍である西白根側が大凧を揚げます。西軍の凧は、綱を強く引くことで高く舞い上がり、その後、左回転しながら川面に突き刺さるかのような急降下をするように調整されています。西軍の揚げ手は、絶好のタイミングを見計らって全力で走り出し、巧みに凧を操作して東軍の凧の揚げ綱に絡ませます。両軍の大凧が空中で、あるいは川面近くで複雑に絡み合った後、互いの凧綱が切れるまで力強く引き合います。先に凧綱が切れてしまった側がその勝負の敗者となります。

使用する凧の種類

合戦に使用される凧は、「大凧」と「巻凧」の2種類があり、それぞれ同じ種類の凧同士で勝負が行われます。

大凧

白根大凧合戦の主役とも言えるのがこの「大凧」です。その大きさは圧巻で、縦7メートル、横5メートルと畳にして約24畳にも及び、合戦用の凧としては世界でも最大級とされています。竹で組まれた頑丈な骨組みに和紙が貼られており、凧の揚がり方を調整するための長さ約30メートルほどの細いワラ縄でできた鼻緒が42本取り付けられています。さらに、合戦で引き合うために使用される揚げ綱は「元綱（モトイト）」と呼ばれ、直径約2.5センチメートルもの太さがある麻製です。この元綱は、約50から60キログラムの日本麻を材料とし、熟練の名人が3ヶ月もの時間をかけて一本の長さ約130メートルの綱に仕上げる、まさに職人技の結晶です。

巻凧

巻凧は、大凧に比べると小型で、縦2.8メートル、横2.2メートル、畳約5畳程度の六角形の凧です。こちらも元綱と4本の鼻緒を備えています。「巻凧」という名称は、使用後に縦の骨を抜き、くるくると巻き取って収納することに由来しています。

歴史的エピソードと白根凧合戦協会

明治44年（1911年）6月6日には、旧オーストリア＝ハンガリー帝国の武官で、日本にスキー技術を伝えたことで知られるテオドール・エードラー・フォン・レルヒ少佐が、当時の第13師団長であった長岡外史と共に白根大凧合戦を見物に訪れました。レルヒ少佐はこの勇壮な光景を「日本古来の武士道的合戦」と絶賛し、同年7月には優勝旗を寄贈しています。この優勝旗は昭和6年（1931年）の白根大火で失われてしまいましたが、優勝旗の寄贈を機に、合戦のルールを明確化し、勝敗を公正に判定することを目的として「白根凧合戦協会」が設立されました。協会は平成23年（2011年）、設立100周年の節目に残された資料をもとに、かつての優勝旗を見事に復元しています。

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