白洲退蔵

白洲退蔵：日本の近代化を支えた実業家

白洲退蔵(1829-1891)は、江戸時代後期から明治時代にかけて活躍した、日本の幕臣、実業家です。白洲次郎の祖父として知られていますが、その生涯は、日本の近代化に大きく貢献した、波乱に満ちたものでした。

生い立ちと三田藩での活躍

兵庫県三田市出身の白洲退蔵は、三田藩儒官の子として生まれました。幼少期から優秀であり、篠崎小竹や古賀謹一郎らに師事した後、藩校「造士館」の教授を務めました。

1862年、町奉行兼郡奉行に就任すると、三田藩の財政再建に着手。優れた洞察力と交渉力によって、保守的な藩士たちを説得し、藩政改革を断行しました。その改革の中心は、西洋文明の積極的な導入でした。福沢諭吉らの翻訳書を藩主に紹介し、西洋式の軍装や兵器の採用を進めるなど、時代を先取りした改革を推進しました。また、三田米を使った「牡丹政宗」という銘柄の酒造りや、三田牛（現在の神戸牛）の飼育奨励など、殖産興業にも力を注ぎました。

ペリー来航の際には、農民に扮して浦賀で情報収集を行うなど、情報収集にも長けていました。戊辰戦争では、藩論を統一し、倒幕に貢献しました。

明治維新と志摩三商会

明治維新後、三田県大参事を務めた白洲退蔵でしたが、小寺泰次郎と共に進めた厳しい政策が原因で農民一揆が発生します。その後、洋学導入にも取り組み、川本幸民を講師として招へいしました。

廃藩置県により三田藩知事を失った九鬼隆義と共に、1873年、神戸で「志摩三商会」を設立。九鬼隆義が総裁、白洲退蔵が社長に就任しました。この会社は、三田出身の士族16名が出資した合名会社でした。政府からの民部省への招へいを断り、福沢諭吉の教えに従い実業界に身を投じました。

1875年には、九鬼隆義の要請により、自らの屋敷を提供して学校（後の神戸女学院）の創設に協力するなど、教育にも貢献しました。1880年には、兵庫県初代県会議員に選ばれました。

横浜正金銀行頭取と晩年

1882年、福沢諭吉と九鬼隆義の推薦により、横浜正金銀行（現・三菱UFJ銀行）の副頭取に就任。翌年には頭取に昇進しましたが、3ヶ月後に辞任し、大蔵御用掛や岐阜県大書記官などを務めました。

1890年に役人を辞職し、九鬼家の家政を預かりました。1891年、九鬼隆義の死去後、自らも病に倒れ、同年9月10日に63歳で亡くなりました。

白洲家と家系

白洲家は、清和源氏にルーツを持ち、甲州武田氏とも繋がりのある由緒ある家系です。江戸中期には、白洲文蔵が尾張徳川家に仕え、軍学や書道に秀でていました。その後、浪人を経て三田藩士となり、白洲退蔵の礎を築きました。

白洲退蔵の生涯は、激動の時代を生きた実業家の物語です。藩政改革、殖産興業、教育、そして金融界での活躍を通して、日本の近代化に大きく貢献した、重要な歴史人物と言えるでしょう。

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