白箸翁

白箸翁（しらはしのおきな）

白箸翁は、平安時代前期に生きたとされる、出自不明の謎めいた老人です。その名と出自は記録に残されておらず、通称である「白箸翁」は、貞観末期に京都で白い箸が売られていたことに由来するとされています。

容姿と服装

翁は、白く柔らかい髪を持ち、身なりに無頓着でした。衣服や履物をきちんと整えることはなく、いつも古びた黒い着物を着ており、季節によって着替えることはなかったと伝えられています。その異様な風貌は、周囲の人々の目を引いたことでしょう。

奇妙な食生活

翁の食生活もまた、特異でした。人々から食料を与えられると、その量に関わらず、満腹になるまで食べ続け、酔い始めることもあったと言います。しかし、時には数日間、何も食べたり飲んだりしないこともあり、その際も空腹による苦悶の表情を見せることはなかったとされています。このように、常人とはかけ離れた食生活は、彼の神秘性をより一層際立たせていました。

人となり

翁は、利己的でありながらも謙虚な一面を合わせ持ち、感情の起伏が激しい人物だったとされています。その行動は一貫性がなく、周囲の人々を困惑させたかもしれません。しかし、その一方で、どこか憎めない不思議な魅力を持っていたことも想像できます。

死と復活の謎

翁は最終的に、都の門で病に倒れ、その生涯を終えたとされています。街の人々は、その死を悼み、東河の東側に埋葬しました。しかし、それから20年後、法華経の僧侶が南山の石室で翁を目撃し、「お元気ですか」と尋ねたところ、翁は微笑んだものの、何も答えなかったと伝えられています。この出来事は、翁の奇妙な生涯を締めくくる、さらなる謎として語り継がれています。

翁の奇譚が語り継がれる理由

白箸翁の物語は、その奇妙な容姿や行動、そして死後の復活譚など、多くの謎に包まれています。人々は、この奇譚に触れるたびに、その不可解な現象に心を奪われ、翁の存在は、伝説として語り継がれるようになったと考えられます。彼の物語は、現実と非現実の境界線を曖昧にし、人々の想像力を掻き立てる、魅力的な素材として、今もなお語り継がれているのです。

参考文献

* 菊池容斎編著『前賢故実』

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