白藤江の戦い (938年)

白藤江の戦い（938年）

白藤江の戦いは、938年にベトナムの呉朝軍と南漢軍との間で繰り広げられた、ベトナムの歴史における重要な戦いです。この戦いは、ベトナムが長きにわたる中国の支配から独立を果たす上で、決定的な役割を果たしました。バックダン川の戦いとも呼ばれています。

背景

10世紀初頭、ベトナムでは中国からの独立運動が活発化していました。呉朝の創始者である呉権は、内乱を制して勢力を確立しましたが、その過程で矯公羨との間で争いが起こりました。矯公羨は南漢に支援を求め、これを受けて南漢は、皇帝劉龑の息子である万王劉弘操を静海軍節度使に任じ、約1万の兵をベトナムへ派遣しました。南漢軍は、矯公羨の水軍とともに、海からバックダン川を遡り、紅河デルタの中心部へ進軍しようとしました。

戦闘の経過

呉権は南漢軍の侵攻を予見し、ハロン湾付近のバックダン川河口で迎え撃つ準備を整えました。彼は、地形を最大限に利用した戦略を立てました。白藤江は両岸が森林に覆われ、海抜が低く、潮の干満の影響を強く受ける場所でした。呉権は、この地形的特徴を活かすため、兵士と民衆に命じて、森で数千本の長い木を伐採させ、その先端を鉄で覆った杭を、川の要所に打ち込ませました。杭は水中に隠れるように設置され、満潮時には水面下に沈み、干潮時には水面から突き出るように配置されました。

938年秋、劉弘操が率いる南漢軍の水軍が河口から侵入を開始しました。呉権はまず、満潮時に小型船の一団をおとりに使い、南漢軍を白藤江の奥へと誘い込みました。潮が引き始めると、呉権は伏兵に攻撃を命じました。南漢軍は、退路を断たれ、水面から現れた杭によって船が破壊されました。南漢軍は混乱に陥り、船を捨てて逃げようとしましたが、杭によって逃げ道を阻まれました。

呉朝軍は小型船を巧みに操り、白兵戦を展開しました。南漢軍は甚大な損害を被り、兵士の半数以上を失ったと言われています。劉弘操もこの戦いで命を落としました。

戦いの結果と影響

白藤江の戦いは、呉朝軍の圧倒的な勝利に終わりました。この勝利によって、ベトナムは約1000年間にわたる中国の支配から解放され、独立を達成しました。呉権は、この功績により王位に就き、ベトナムは新たな時代を迎えました。この戦いは、ベトナムの歴史において、民族の独立と自尊心を象徴する重要な出来事として語り継がれています。

戦略の特徴

白藤江の戦いの特筆すべき点は、呉権が地形を巧みに利用した戦略です。彼は、潮の満ち引きを利用し、杭を仕掛けることで敵軍を誘い込み、退路を断ちました。また、小型船による機動力を活かした戦術も、南漢軍を打ち破る上で重要な役割を果たしました。

脚注

この戦いは、後の1288年に元軍を破った白藤江の戦いとは別のものです。

参考文献

* ファン・ゴク・リエン監修『ベトナムの歴史　ベトナム中学校歴史教科書』《世界の教科書シリーズ21》明石書店、2008年。

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