白露山佑太

ロシア連邦北オセチア・アラニヤ共和国ウラジカフカス市出身の元大相撲力士、白露山佑太（はくろざん ゆうた）。本名をバトラズ・フェーリクソヴィッチ・ボラーゾフ（Батра́з Фе́ликсович Бора́дзов）といい、兄の露鵬（元大嶽部屋）と共に、海外出身力士として史上初めて兄弟揃って関取の地位に昇進したことでその名を知られる。最高位は東前頭2枚目。

ロシアで幼少期を過ごし、14歳でアマチュアレスリングを開始すると、16歳で世界ジュニア選手権大会を制するなど頭角を現した。18歳からは相撲にも取り組み、モスクワでの100kg超級大会で優勝するなど実績を重ねた。2002年2月、兄と共に来日し、角界入りを果たす。本来は兄と同じ部屋に入門する予定だったが、外国出身力士の同一部屋所属は一人に限るという当時の規則により、兄は大鵬部屋、自身は二十山部屋への入門となった。四股名の「白露山」は、故郷ロシアを意味する「露」、入門部屋である二十山部屋の「山」、そして師匠、13代二十山親方（元大関・北天佑）の現役時代の四股名から一字拝借した「佑」などを組み合わせて命名された。

2002年5月場所で力士としての第一歩を踏み出し、その後は順調に番付を上げた。2004年9月場所に新十両へ昇進し、2005年7月場所には新入幕を果たす。幕内昇進後も好調を維持し、特に2005年11月場所では兄の露鵬と共に10勝5敗と揃って二桁勝利を記録し、兄弟揃っての活躍が注目を集めた。2006年3月場所から5月場所にかけては、自身にとって初となる2場所連続での勝ち越しを達成するなど、さらなる飛躍が期待された。しかし、2006年6月、師匠である13代二十山親方が急逝。これにより、当時の日本相撲協会理事長であった北の湖親方（元横綱・北の湖）が率いる北の湖部屋へ兄と共に移籍することとなった。

北の湖部屋への移籍後初の場所となった2006年7月場所では、自己最高位となる東前頭2枚目に番付を上げた。これは兄の露鵬（東前頭3枚目）よりも上位であり、兄弟の番付が逆転した場所でもあった。しかし、場所直前に足を負傷した影響もあり、初日に大関・琴欧州に勝利する金星を挙げたものの、5日目からはまさかの11連敗を喫し、最終的に2勝13敗と大きく負け越してしまった。これにより、目標であった三役への昇進を逃した。続く同年9月場所、11月場所も負け越しが続いたが、11月場所では西前頭14枚目の地位で、初日からの8連敗後に7連勝するという珍しい記録を残した（ただし、この7勝のうち4勝は十両力士との対戦によるもの）。翌場所は番付据え置きだったものの、幕内力士数の増加により実質的には番付が一つ上がった形となった。

2007年1月場所では8勝7敗と、師匠死去後初めて勝ち越しを果たした。しかし、翌3月場所では東前頭13枚目で5勝10敗と大きく負け越してしまい、十両へ陥落。その後は幕内下位と十両を往復する停滞期が続いた。力士生活の最後の場所となったのは2008年7月場所で、西十両4枚目で土俵に上がったが、7勝8敗と惜しくも負け越しに終わった。

そして2008年9月、事態は急変する。日本相撲協会が十両以上の力士を対象に実施した簡易尿検査で、兄の露鵬と共に大麻の陽性反応が検出されたのだ。兄弟は警察の事情聴取に対し大麻使用を否定したが、専門機関での精密検査でも陽性反応が出たため、協会は同年9月8日の理事会で、日本相撲協会寄附行為に違反したとして、兄弟揃っての解雇処分を決定した。この出来事は「大相撲力士大麻問題」として大きく報じられ、角界全体に衝撃を与えた。

白露山は、非常に穏やかで落ち着いた性格として知られていた。兄の露鵬が他の力士と小競り合いを起こした際には、風呂場で兄をなだめる姿が見られたという。また、師匠である13代二十山親方の告別式では、人目をはばからず涙を流すなど、情の深い一面も持ち合わせていた。クラシック音楽をこよなく愛し、特にベートーヴェンの楽曲を好んで支度部屋で聴いていた。「心が落ち着くから」というのがその理由で、もし土俵下で聴くことが許されるなら「運命」を聴きたいと語ったこともある。趣味はクラシック音楽鑑賞のほか、パチンコも楽しんだ。師匠の北の湖親方は、部屋での稽古に対する姿勢は真面目で良好だったと評価する一方で、巡業での態度に関しては厳しく評しており、巡業担当の親方から「このままでは協会に言ってクビにしてもらうぞ」と厳しい言葉を投げかけられた経験もあった。現役時代に使用していた化粧回しは、白ヒョウの図柄に白星が発光ダイオードで点滅する仕掛けが施された電飾仕様のもので、土俵入りを華やかに彩った。

エピソードとして、2006年には人気力士の高見盛、把瑠都と共に全日本空輸（ANA）の国際線割引運賃サービス「エコ割」のテレビCMに出演した経験がある。解雇が決定し、師匠の北の湖親方が日本相撲協会理事長を辞任したその日、北の湖親方の粋な計らいで部屋の中で送別会が催された。部屋の外には報道陣が大勢詰めかけていたため、一部週刊誌などから批判的な報道もあったが、北の湖親方は「自分の弟子が土俵を去る時に何も声をかけずにいられますか。他の弟子にとっても、一緒に稽古してきた仲間。どんな理由にせよ、弟子が辞める時に頑張ったなと送り出すのは当然だ」と、自身の考えを述べている。また、2009年のロシアメディアによるインタビューに応じた際には、自身と兄の解雇は大麻使用が真の原因ではなく、師匠である北の湖親方を角界から追い落とそうとする勢力による陰謀であり、自身がその標的とされ、兄はそれに巻き込まれたのだと主張した。このインタビューでは、共謀したとされる複数の協会員や外部関係者の名前を具体的に挙げている。白露山は20代前半から薄毛に悩んでいたことでも知られ、解雇後、角界復帰を断念してロシアへ帰国する飛行機の中で髷を落としたが、髪が極めて少なかったため鋏を使わず素手で引き抜いたというエピソードも残っている。また、酒はほとんど飲めない体質でありながら、ロシア出身であるため「酒に強いだろう」と周囲から思われがちなことを「迷惑だ」と感じていたとも語っている。

主な成績
通算成績：38場所で233勝218敗（勝率.517）
幕内成績：15場所で97勝128敗（勝率.431）

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