皮膚ガス

皮膚ガスとは

皮膚ガスとは、体表面から放出される揮発性物質の総称であり、その一部は体臭として認識されます。これは呼気や腸内ガスと同様に生体ガスの一種であり、その種類や放出量は、人の身体的・生理的状態、病気の有無、生活習慣や環境によって変化します。非侵襲的な測定が可能であるため、皮膚ガスから得られる情報は、病気の予防などに役立つと期待されています。皮膚ガスは300種類以上のガスから構成されています。

皮膚ガスの発生機構

皮膚ガスは、エネルギー基質（糖質、脂質、タンパク質）の代謝物、呼吸や食事を通じて体内に取り込まれた外来因子、皮膚表面での生物的・化学的反応生成物などから構成されます。放出経路で分類すると、以下の3つに大別できます（東海大学理学部・関根嘉香教授の分類に基づく）。

血液由来

血中の成分が揮発して直接皮膚から放出される経路です。血管の分布や血液循環と密接な関係があります。例えば、脂質代謝によって生成されるアセトンはこの経路で放出されます。

皮膚腺由来

汗腺や脂腺などの皮膚腺を通じて放出される経路です。皮膚腺由来の成分の放出量は、発汗や皮脂の分泌に伴って増加します。血中の成分が汗腺を経由して放出されることもあります。

表面反応由来

汗や皮脂の成分が常在菌や過酸化物の作用によって揮発性化合物に変化し、皮膚表面から放出される経路です。従来の「体のにおい」は、汗や皮脂に対する皮膚常在菌の作用によるものと考えられてきましたが、皮膚ガスの観点から見れば、これは放出経路の一つに過ぎません。

皮膚ガスの種類

皮膚ガスの種類はまだ十分に解明されていませんが、これまでに以下のガス成分が確認されています。

アセトン: 脂質代謝の生成物であり、糖質不足や糖尿病などで脂質分解が促進されると生成されます。糖尿病診断への応用が期待されています。
アセトアルデヒド: エタノールの代謝物であり、お酒臭さの原因となります。呼気よりも皮膚からの放出が長く続きます。
酢酸: 発汗に伴い放出量が増加し、睡眠の深さによって夜間の放出量が変化するため、睡眠の質の指標となる可能性があります。
アンモニア: たんぱく質やアミノ酸の代謝、筋肉中のAMP分解で生じ、運動や精神的ストレスで放出量が増加します。疲労度計の開発に応用されています。
ジアセチル: 汗中の乳酸と皮膚常在菌の反応で生成され、汗をかきやすい部位から多く放出されます。30～40代男性に特有のにおい成分として注目されています（ミドル脂臭）。
2-ノネナール: 皮脂中の脂肪酸の酸化生成物であり、加齢に伴い放出量が増加するため、加齢臭の原因とされています。
トルエン: 生体内では通常生成されない化学物質も、皮膚から放出されることがあります。これは、経口・吸入曝露によって体内に侵入した化学物質が血中に移行し、放出されたと考えられます。曝露履歴の指標として利用できる可能性があります。
3-メチルブタン酸: 蒸れた足の臭いの原因物質です。

皮膚ガス対策

皮膚ガスを抑えるためには、以下の対策が有効です。

シャワーやウェットシートで清潔に保つ
適切な入浴で皮脂を管理する
香水、デオドラント、制汗剤を使用する
リラックスや十分な睡眠を心がける
マイクロ波照射で汗腺機能を破壊するミラドライを検討する

参考文献

参考文献、出典元を記載

関連項目

生体ガス
バイオガス
体臭
PATM（皮膚ガスの異常放出によるアレルギー症状）

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