盗作 (アルバム)

ヨルシカ 3rd Full Album 『盗作』

ヨルシカの3枚目のフルアルバム『盗作』は、2020年7月29日にユニバーサルJから発売されました。前作『エルマ』から約1年ぶりのリリースとなる本作は、n-bunaが全曲の作詞作曲編曲・プロデュースを手掛けた、ストーリー性のあるコンセプチュアルな作品です。

概要

アルバム『盗作』は、"音楽の盗作をする男の物語"をテーマに、10編の歌と4曲のインストゥルメンタルで構成されています。楽曲には様々な作品からのメロディや詩の"引用"が散りばめられており、芸術の価値や本質に対する批評的な視点も含まれています。初回限定版は、コンセプトを綴った130ページに及ぶ小説が同梱され、作品世界をより深く体験できるアナログ的な仕掛けが施されています。

制作背景

n-bunaは、『エルマ』制作後から構想していた「音楽の主張のようなもの」を本作に込めました。それは、"盗作"や"オマージュ"といったテーマを探求し、情報だけでは盗作とみなされる行為が、公言することでオマージュに変わるという現象に対する問題提起です。「盗作と題した作品すら、ひとつの作品になるのではないか」という思いから、このコンセプトアルバムが生まれました。また、ヨルシカという既存のイメージを破壊し、聴き手に衝撃を与える作品を作りたいという衝動も、制作の背景にありました。

リリースとプロモーション

アルバムには、映画「泣きたい私は猫をかぶる」の挿入歌「夜行」と主題歌「花に亡霊」が収録されています。これらの楽曲は先行配信され、アルバム発売前には「春ひさぎ」と「思想犯」もリリースされました。YouTubeでは全曲クロスフェード動画が公開され、アルバムへの期待を高めました。アルバム発売後には、収録曲の総再生回数が1億回を突破し、週刊少年サンデーの漫画「よふかしのうた」とのコラボMVも公開されました。

コンセプト

初回限定版に同梱された小説は、アルバム収録曲の背景となる"音楽の盗作をする男の物語"を描いています。男が自身の"盗作という破壊衝動"を告白する物語と、様々な作品からの引用を通じて、n-bunaは作品がどのように生まれたかという"情報"に重きを置く世の中への反発を表現しています。本作は単なる「盗作という題の作品」ではなく、「『盗作という題の作品に群がる人達』という名前の絵」であるという点で、メディアアートとしての側面も持っています。アートワークは永戸鉄也が手掛け、コラージュ的手法が「盗作」というテーマと共鳴しています。

構成と音楽性

アルバム全体を通して、"別れや喪失感のようなものを根底に据えて、夏の雰囲気と一緒にアウトプットしている"というヨルシカの核となる要素は健在です。前半は重厚なロック調の楽曲が並び、後半になるにつれて理性的な側面が見え、最終的には"男"が本当に書きたかったものが残るという構成になっています。ベートーヴェンの「月光」を引用した「音楽泥棒の自白」は、"男"が自身の人生を語る様を表現しており、グリーグの「朝」を引用した「青年期、空き巣」と共に、永戸のアートワークから着想を得ています。「春ひさぎ」では、スウィング・ジャズ的な曲調をロックンロールの中で解釈し、商売音楽を売春というメタファーで表現しています。「花人局」はアルバムの転換点となる楽曲で、愛おしいものを表現しています。エリック・サティの「ジムノペディ」を引用したインスト曲「朱夏期、音楽泥棒」、アルバム全体のテーマを表す「盗作」、ジョージ・オーウェルの小説「1984」をテーマにした「思想犯」、ジャズ的な曲調とサンプリングの手法を用いた「逃亡」、夕暮れの情景を表現したインスト曲「幼年期、思い出の中」、そして夏の空気感をモチーフにした「花に亡霊」へと続きます。アルバムは昼から夕方、夜へと時間が進むように構成されており、n-bunaは聴き終わった後に夏の匂いが残るような作品を目指したと語っています。

評価とチャート成績

音楽レビューサイト「Mikiki」では、本作が「〈商売としての音楽〉〈盗用とオマージュ〉などのテーマを自在に弄ぶアイロニカルに尖ったキャッチーさは実に雄弁」と評されました。ロッキング・オンでは、「コンセプチュアルな作風、つまり多分に意図を含んでいながら、その根底にはピュアな表現衝動がとめどなく流れている」と指摘され、「『あの時純粋な気持ちで触れた音楽に影響を受けている』という事実から『盗作』という定義を導き出した点」が高く評価されました。アルバムはオリコン週間アルバムランキングで初登場2位を獲得し、自身の初動売上記録を更新しました。デジタルダウンロードでも1位を獲得し、Billboard Japanの年間チャートでも上位にランクインしました。

ライブツアー

アルバム発売から1年後には、全国ホールツアー『ヨルシカ LIVE TOUR 2021 「盗作」』が開催され、『盗作』と『創作』の楽曲が披露されました。

ヨルシカの『盗作』は、音楽的な実験性と文学的な深みが融合した、聴きごたえのある作品です。

もう一度検索