盲獣

『盲獣』の概要

江戸川乱歩による小説『盲獣』は、1931年から1932年にかけて連載された作品で、当時流行していた通俗的なジャンルの一つとされています。この作品は、乱歩自身が後に失敗作と位置付けているため、文学における彼の幅広い創作活動の中でも特異な存在となっています。

あらすじ

物語は、浅草歌劇団の踊り子、水木蘭子の運命が大きく変わる瞬間から始まります。彼女はある日、恋人の使いを装った車に乗せられ、見知らぬ地下室に連れ去られます。その地下室には、異様なオブジェたちが並べられており、全てが女性の身体の部位を模して作られています。奇妙な色彩で彩られたそれらは、驚くべき触感を持つ器具によって仕上げられています。

この地下室の主は「盲目の男」と呼ばれる人物です。彼は生まれつきの全盲であり、触覚を通じて芸術を追求しています。彼は父からの莫大な財産を使い、その特異な芸術を創造させ続けていました。蘭子も次第に彼の世界に引き込まれ、二人は地下室で共に過ごすようになりますが、次第に男の本性が見え隠れし始め、彼女に対する執着が薄れていくのです。

映画化

この作品は、1969年に大映によって映画化されました。増村保造が監督を務め、白坂依志夫が脚本を担当しました。原作に比べて自由な解釈が施されており、中盤以降はオリジナルな展開が繰り広げられます。

1969年版の映画では、船越英二が蘇父道夫役、緑魔子が島アキ役を演じ、千石規子が蘇父しの役で出演しました。物語は原作の持つ緊張感を活かしつつ、独自の空気感を生み出しています。

また、2004年には『盲獣vs一寸法師』という映画も制作され、こちらも原作をベースにした要素を持ちつつ、異なる視点からのアプローチを行っています。

漫画版

2017年には、久木田高明による漫画版『盲獣』が販売されました。こちらは電子書籍専門の作品であり、原作に沿った内容でありながら、三人目の被害者である麗子を探偵役として登場させ、独自の探偵物語として展開しています。この改変により、原作とは異なる視点からストーリーを楽しむことができる作品に仕上げられています。

参考資料

『盲獣』は、国立国会図書館のデジタルコレクションでも閲覧可能です。春陽堂から出版された1932年版や、平凡社による1935年版の『亂歩傑作選集 第9卷 盲獣』など、多様な形でこの作品に触れることができます。また、マンガ図書館Zでも漫画版が配信されており、多くの人々がこの独特な物語を楽しむ機会を得ています。

江戸川乱歩の『盲獣』は、視覚を失った男と彼を取り巻く奇妙な世界を通じて、人間の欲望や愛情の深さ、そして芸術の本質に迫った作品と言えるでしょう。

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