直接侵略

直接侵略（ちょくせつしんりゃく）

直接侵略は、軍事学において、ある国家がその正規の軍事力を行使し、他国に対して先制的に攻撃を仕掛けることを指します。英語では「Direct aggression」または「Direct invasion」と呼ばれます。

概要

この概念は、国家が公式な軍隊を使って攻撃を行い、相手国の国境を越えてその領土内に深く侵入し、敵対する軍隊と交戦し、最終的にその地域を自国の支配下に置く（占領する）ことによって地上の支配権を確立する一連の行為を指します。必ずしも長期の占領を伴うとは限らず、短期間であっても、対象国の港湾を封鎖したり、インフラを破壊したり、資源や財産を略奪したり、あるいは国民を拉致したりするなど、他国の主権を一方的に侵害する武力行使も直接侵略に含まれる場合があります。

直接侵略は、国家の軍事戦略を示す重要な概念です。実際の作戦行動としては「攻勢作戦（Offensive operations）」に分類され、より詳細な戦術レベルでは「攻撃（Attack）」と呼ばれます。この行為の主体は、その国の政府とその指揮下にある正規軍です。

軍事的な観点から見ると、直接侵略を行う側は、防衛側に対して時間、場所、手段において主導権を握りやすいという利点があります。特に最初の攻撃（第一撃）においては、奇襲効果などにより相手に決定的な損害を与えられる可能性が高いと考えられています。しかし、侵略行動は戦闘による兵力や装備の消耗が非常に激しい活動であるとともに、地形などの地理的環境が侵攻の障害となることも少なくありません。さらに、前線が拡大するにつれて補給線（兵站線）が伸びてしまい、国家全体の兵站能力に大きな負担をかける傾向があります。

また、特定の政治的目的のために、比較的小規模な戦力を用いて短期間に既成事実を築くことを目指す戦争形態は、「限定的小規模侵略（Limiter and small-scale aggression）」と呼ばれ、これも直接侵略の一種と位置づけられます。

方式

直接侵略を実行する主な方式は、以下の三つに大別されます。

核攻撃: 敵国の政治・経済的中枢や大規模部隊の集結地を標的とする戦略核兵器を用いた戦略的核攻撃と、特定の作戦領域で用いられる戦術核兵器を用いた戦術的核攻撃に区分されます。
在来型侵略: 現代の通常の兵器を用いた攻撃です。これには、陸上部隊による砲撃や地上からの突撃、空挺降下やヘリコプターを使った強襲、海岸への上陸作戦などがあります。また、海上部隊による沿岸への砲撃や海上封鎖、敵艦艇や潜水艦への攻撃、さらに航空部隊による戦略目標や戦術目標への爆撃や支援攻撃などが含まれます。
* 非在来型侵略: 通常の正規軍の作戦とは異なる方法です。秘密裏に行われる敵地への侵入や、ゲリラ部隊、特殊部隊（コマンド）による特殊な攻撃などが挙げられます。

実行における要素

直接侵略を成功させるためには、いくつかの重要な要素があります。

戦力投射

「戦力投射（Force projection）」とは、軍事作戦において、自国の戦力を遠隔地の作戦地域へ迅速かつ安全に移動させ、展開し、そのまま戦闘行動を継続できる能力を指します。直接侵略を行う上で、この戦力投射能力（Capacity of force projection）は不可欠です。戦力投射には、実際に戦闘を行う部隊（戦闘部隊）だけでなく、それらを後方から支援する部隊（戦闘支援部隊、後方支援部隊）や物資を同時に展開させることも含まれます。これら多様な要素を並行して運用する必要があるため、戦力投射の段階では極めて高度かつ複雑な計画立案と実行が求められます。

侵攻・攻撃

直接侵略は、軍事作戦の観点からは「攻勢作戦（Offensive operations）」に分類され、その具体的な戦術行動は「侵攻（Invasion）」と「攻撃（Attack）」によって構成されます。侵攻とは、敵国の国境を越えてその領土内に深く入り込み、主要な地域や戦略目標を目指して前進することを意味します。攻撃には、即座に行われる「応急攻撃」と、入念な準備のもとで行われる「周密攻撃」があります。その目的は、防御する敵部隊に対して、その戦闘能力を一時的または完全に喪失させる（撃破、撃滅）か、戦闘行動を不可能にする（無力化）ことにあります。このために、攻撃側は積極的に、主導権を握る形で部隊を機動させ、火力や兵力を効果的に投入します。

こうした侵攻と攻撃を通じて敵対勢力を排除し、空軍力によって上空の支配権（航空優勢）を、海軍力によって海上における支配権（制海権）を、そして陸軍力によって地上の支配権（地上権）を確立していくことが目指されます。

占領

直接侵略の結果、敵対勢力を排除し、その国土を支配下に置く（占領する）ことに成功すれば、その地域において侵略国自身の権力を行使することが可能となります。陸地は人間の基本的な生存基盤であり、複雑な経済活動が行われる社会にとっても不可欠な要素です。土地は様々な資源を内包し、資本としても機能します。さらに、政治的な観点からは、領土は国家を構成する基本要件の一つであり、その国家の権力や権威を示す象徴でもあります。軍事力によって占領された地域では、まず侵略国の軍隊による占領行政が敷かれ、治安の維持といった基本的な公共サービスが実施されることになります。

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