相馬哲平 (初代)

初代相馬哲平は、天保4年（1833年）5月5日に越後国蒲原郡荒井浜（現在の新潟県胎内市）で、相馬熊次郎の二男として誕生しました。実家は木造和船を使った回漕業と綿屋を兼業していましたが、決して裕福な暮らしではなかったため、哲平は幼い頃から自立を目指し、何か手に職をつけたいと考えていました。

文久元年（1861年）、28歳になった哲平は、新たな可能性を求めて北海道の箱館（現在の函館）へと旅立ちます。箱館では、故郷の先輩にあたる岩船屋春蔵のもとで奉公することになりますが、その働きぶりは大変真面目で、日中の仕事が終わった後も春蔵の許しを得て独自の行商を行うなど、勤勉に励みました。この間の給金と行商で得た利益を全て貯蓄に回し、箱館に渡ってから足かけ3年という短期間で、独立して米穀商を開業するに至ります。

哲平の事業は順調に拡大していきました。特に箱館戦争が発生した際には、米の需要増加を見越した投機によって巨額の富を築いたと伝えられています。その後も、海産物販売、不動産業、そして金融業へと次々と事業分野を広げ、確固たる財産基盤を築いていきました。明治17年（1884年）には米穀商を辞め、金融業を専業とすることを決めます。百十三銀行や函館貯蓄銀行で頭取を務めるなど、金融界において重要な役割を果たしました。

実業界での成功に加え、公的な活動にも関与しました。箱館相場会所の委員や商事通信委員、函館港改良工事委員として経済インフラの整備に貢献したほか、日本赤十字社北海道支部商議員や済生会評議員として社会的な活動にも参加しています。大正期に入ると、大正4年（1915年）には事業を統括する持株会社として相馬合名を設立し、大正8年（1919年）には事業執行会社である相馬商店を立ち上げ、これらの組織を中心に事業と不動産所有を拡大させていきました。その結果、昭和8年（1933年）には相馬家の総資産は三千万円に達し、北海道を代表する有力な地方財閥の一つを形成するまでになりました。

事業の拡大に伴い、哲平の社会に対する考え方も変化していきました。当初は公益事業への関心は薄かったとされますが、多大な財産を築いた後は「郷土報恩」の精神を重んじるようになります。この考えに基づき、函館区役所や函館区公会堂といった公共建築物の建設費用をはじめ、多くの公共施設や神社仏閣の維持修繕、さらには凶作時の住民救済資金など、様々な目的のために多額の私財を惜しみなく寄付しました。その慈善活動は多岐にわたり、函館の都市機能の向上と社会福祉の増進に大きく貢献しました。

政治分野においては、大正7年（1918年）9月29日には多額納税者として貴族院議員に選出され、約1年半の間、国政にも関わりましたが、大正9年（1920年）3月18日に辞任しています。

哲平の人物像については、極めて勤倹質素な生活を送り、普段は粗末な衣服を着用していたと伝えられています。また、性格は冷静で飾り気がなく、無愛嬌な一面もあったため、当時の函館市民の間で特に慕われる存在ではなかったともいわれています。しかし、神仏を深く崇敬し、徹底した倹約を心がけながらも、「郷土報恩」のためとあれば巨額の寄付を躊躇しないという強い信念の持ち主でした。彼の本邸の一部は、大正時代に建てられたものが函館区公会堂の近くに現存しており、「旧相馬邸」として一般に公開され、当時の繁栄ぶりと哲平の遺徳を今に伝えています。

大正10年（1921年）6月6日、87歳でその生涯を終えました。哲平が築いた事業と財産は、長男である二代相馬哲平（堅弥）へと引き継がれ、相馬家はその後も北海道経済の発展に重要な役割を果たし続けました。

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