相馬誠胤

相馬誠胤：幕末から明治への波乱の生涯

相馬誠胤は、幕末期を生き抜き、明治維新後も数々の苦難を経験した陸奥中村藩の最後の藩主です。1852年、第12代藩主・相馬充胤の次男として誕生し、幼名は季胤、通称は吉次郎または吉太郎、官位は従五位下因幡守に叙せられました。明治に入ると正四位、子爵の称号を贈られています。しかし、彼の名は、晩年に勃発した「相馬事件」によって、歴史に深く刻まれることとなりました。

藩主としての歩みと戊辰戦争

安政5年（1858年）、誠胤は父の嫡子となり、慶応元年（1865年）には家督を相続、正式に第13代藩主となりました。将軍徳川家茂への拝謁や叙任など、藩主としての儀礼をこなす一方、幕末の動乱期には小藩であった中村藩の規模ゆえ、主体的な政治行動は限られていました。

戊辰戦争では、鳥羽・伏見の戦いの後、家老を朝廷に派遣するなど、周囲の情勢を伺いながら奥羽越列藩同盟に参加。新政府軍と対峙する立場を取りますが、戦闘においては積極的な行動はとらず、明治政府への降伏という決断を下しました。中村城開城後、父とともに謹慎生活を送ることとなります。

明治政府下での生活と相馬事件

明治2年（1869年）には中村藩知事に任命されますが、明治4年（1871年）の廃藩置県により解任。その後、慶應義塾に入塾し新たな学びを追求しました。しかし、彼の生涯は平穏とは程遠く、晩年には「相馬事件」と呼ばれる大きな騒動に巻き込まれます。

明治12年（1879年）、親族らは誠胤の精神状態を理由に宮内省に自宅監禁を願い出て許可されました。親族の証言によると、幕末期から短気な一面があり、明治9年頃からは精神的な変調をきたし、些細なことで激昂するようになったといいます。実際、囲碁の勝負に際して激怒し、家扶を槍で突こうとしたというエピソードも伝わっています。自宅には鉄棒で囲まれた座敷牢が作られ、誠胤はそこに幽閉される日々を送ることとなりました。

この監禁に対し、旧中村藩士の錦織剛清が異議を唱えます。錦織は、誠胤の監禁を、誠胤の弟である相馬順胤らによる不当な財産横領と関連づけて捉え、誠胤の解放と財産返還を求め訴訟を起こしました。これにより、「相馬事件」は本格的に始動します。錦織は相馬家を不法監禁と財産横領で告訴。一方、相馬家も弁護士の星亨を雇い、錦織を誣告罪で告訴するという、泥沼の訴訟へと発展していきました。

誠胤は明治17年（1884年）には一人言を言うようになり、「人を殺す」などの発言もするなど、精神状態は悪化の一途をたどり、医師の診断書にも精神疾患の症状が記録されています。

事件の結末と誠胤の死

明治25年（1892年）2月22日、訴訟の最中に誠胤は41歳で死去します。錦織は誠胤の死を毒殺だと訴え、遺体解剖が行われましたが、毒殺の証拠は発見されず、錦織は誣告罪で有罪判決を受けました。誠胤の死因は糖尿病とされています。

相馬事件は、家族間の確執、財産相続問題、そして誠胤の精神疾患といった複雑な要因が絡み合った悲劇的な出来事でした。この事件は、幕末から明治へと移り変わる激動の時代の中で、一つの家系が抱えた苦悩を象徴する出来事と言えるでしょう。誠胤の生涯は、時代の大きな変化の中で翻弄された一人の藩主の波乱に満ちた物語として、今なお人々の記憶に刻まれています。明治17年には子爵に叙せられていましたが、爵位は弟の順胤が継承することになりました。

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