県主

県主：古代日本の地方豪族とその歴史

律令制以前のヤマト王権において、重要な役割を担っていたのが「県主（あがたぬし）」です。県主は、地方豪族の称号であり、その起源や権限、そしてヤマト王権との関係については、様々な研究がなされています。本稿では、県主について、その成立から役割、地域的分布、そして語源に関する議論まで、多角的に解説します。

県主の成立と役割

県主は、国造や伴造といった他の地方豪族の称号よりも古い歴史を持つとされており、3～4世紀頃の古墳時代初期に成立したと考えられています。「国」が王権による計画的な行政区分であるのに対し、「県」は、より自然発生的な地域区分だったと推測されます。

『日本書紀』によると、神武天皇東征において、弟の磯城が磯城県主に任じられたと記されています。この磯城県は、現在の奈良県桜井市金屋付近に比定される磯城瑞籬宮を中心とした地域であったと考えられています。磯城県主は、大王家と婚姻関係を結び、皇妃を輩出したという伝承も残っています。

また、魏志倭人伝にも倭国の国名として「県」に相当する地名が登場しますが、その関連性については、現在も不明な点が多く残されています。

ヤマト王権における県は、国の下部組織として位置づけられていたと考えられていますが、初期においては国と同列に扱われたとする説もあります。つまり、県は、古くは豪族が支配する小国家のような存在であった可能性があります。しかしながら、律令制以前の行政区分であるため、その詳細は不明な点が多いのが現状です。

地域的分布とヤマト王権との関係

県主は、西日本に多く存在し、東日本では比較的少なかったという傾向があります。これは、ヤマト王権の支配が西日本に比べて遅く確立した東日本と異なり、西日本では崇神天皇朝早くから多くの国造が設置され、豪族の支配地域を早期に掌握したためだと考えられています。

畿内における県主の設置時期も、神武天皇朝初期からであったとされています。その中には、先住氏族を県主に任命したものと、神武天皇東征に従った者を任命したものとが存在していました。

八色の姓の導入や律令制の施行後も、県主の称号自体は存続し、近代においても賀茂神社の賀茂県主氏などに見られるように、その名残は現代まで受け継がれています。

語源に関する諸説

県主の「あがた」の語源については、諸説あります。西岡秀雄はアイヌ語の酋長を語源とする説を唱え、古くから「上田（高所の意）」説と「吾田（勢力圏の意）」説が提唱されてきました。楠原佑介は、「タ」は「田」ではなく「処」の転であると指摘しています。これらの説はいずれも有力な見解であり、確定的な結論は出ていません。

その他

新野直吉は、ミヤツコ（国造、伴造など）が朝廷の官職であるのに対し、県主は異なる性質のものであるという説を唱えています。

県主に関わる地名や職名として「県守（あがたもり）」があり、『和名類聚抄』や『日本書紀』にもその記述が見られます。

県主は、古代日本の地方支配を考える上で非常に重要な存在であり、その歴史と役割を解明することは、古代日本の社会構造を理解する上で不可欠です。今後の研究によって、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

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