八色の姓

八色の姓について

八色の姓（やくさのかばね）は、天武天皇が684年に制定した新しい姓（カバネ）の制度です。これは、従来の氏族制度を再編し、天皇を中心とした新たな身分秩序を確立することを目的としていました。八色の姓は、上から順に真人（まひと）、朝臣（あそみ）、宿禰（すくね）、忌寸（いみき）、道師（みちのし）、臣（おみ）、連（むらじ）、稲置（いなぎ）の8種類から構成されます。

八色の姓制定の背景

『日本書紀』によると、天武天皇は「諸氏の族姓を改めて、八色の姓を作り、天下の万姓を混す」と詔を出し、この制度を制定しました。この背景には、壬申の乱を経て、天皇の権威を強化し、国家体制をより強固なものにしたいという意図があったと考えられています。また、旧来の氏族制度では、有力な氏族が政治に大きな影響力を持っており、天皇の権力基盤を強化する必要がありました。

八色の姓の内容

1. 真人（まひと）：天皇の血縁者や功績のあった氏族に与えられました。息長氏や羽田氏など、天皇の直系の子孫を称する氏族が授けられました。
2. 朝臣（あそみ）：皇族に準じる地位として、有力な氏族に与えられました。臣や君の姓を持つ氏族が、天皇とのつながりが深いと認められ、この姓を授けられました。
3. 宿禰（すくね）：天孫降臨の神々の子孫を称する氏族に与えられました。大伴氏などが該当します。
4. 忌寸（いみき）：渡来系氏族や、連の姓から昇格した氏族に与えられました。以前は伊美吉と表記されていました。
5. 道師（みちのし）：具体的な賜姓記録が残っていません。専門職に従事する氏族に与えられた可能性が指摘されています。
6. 臣（おみ）：旧来から存在した姓で、有力な豪族に与えられました。八色の姓制定後には賜姓の記録がありません。
7. 連（むらじ）：同じく旧来から存在した姓で、臣に次ぐ地位の豪族に与えられました。こちらも八色の姓制定後には賜姓の記録がありません。
8. 稲置（いなぎ）：具体的な賜姓記録が残っていません。地方の有力者に与えられたと考えられています。

八色の姓がもたらした変化

八色の姓は、単なる身分制度の変更にとどまらず、社会構造にも大きな影響を与えました。この制度により、上級官人と下級官人の家柄が明確に区別されるようになり、中央貴族と地方豪族の区分も明確になりました。また、冠位制度とも関連付けられ、上級の姓を持つ氏族のみが錦冠を着用できるなど、政治的にも重要な意味を持つようになりました。

八色の姓の影響

八色の姓の制定は、律令国家体制の確立に向けた重要な一歩でした。旧来の氏族制度を再編し、天皇を中心とした国家体制を強化することで、より中央集権的な政治運営が可能になりました。奈良時代から平安時代にかけて、朝臣姓を称する源氏、平氏、藤原氏、橘氏が台頭し、姓そのものは形骸化しましたが、姓を名乗る慣習は明治時代の本姓廃止まで続きました。

まとめ

八色の姓は、天武天皇が制定した、日本の歴史における重要な転換点を示す制度です。単なる身分制度の変更にとどまらず、社会構造や政治体制に大きな影響を与えました。この制度を理解することは、古代日本の歴史を深く理解する上で不可欠です。

参考資料

竹内理三「天武｢八姓｣制定の意義」『史淵』第43巻、九州大学文学部、1950年
『日本書紀』
『続日本紀』
『古語拾遺』

関連項目

氏姓制度
新撰姓氏録
* 冠位・位階制度の変遷

もう一度検索