矢代幸雄

矢代幸雄の生涯と業績

矢代幸雄（やしろ ゆきお、1890年11月5日 - 1975年5月25日）は、日本における美術史研究の先駆者であり、美術評論家として広く知られています。彼の功績は日本と西洋の美術の架け橋を築き、その研究成果は今もなお多くの人々に影響を与えています。

幼少期と教育背景

矢代は横浜に生まれ、讃岐高松藩の元藩士である父と、神戸出身の母の元で育ちました。父親は当初塗物屋を営んでいましたが、その後商館の番頭として働きました。経済的には決して裕福ではなかったため、彼は自身の水彩画を売り、美術書の翻訳を手がけることで学費を稼ぎました。

横浜商業学校から始まり、神奈川県立第一中学校、そして第一高等学校へと進みました。最終的には東京帝国大学へ進学し、当初は法科を学びましたが、その後文科大学の英文科に転校し、1915年に卒業しました。卒業後は大学院に進み、学業を続けましたが、その間には日本水彩画研究所に通い、多くの作品を発表しました。

欧州留学と研究

1921年から1925年にかけて欧州へ留学し、フィレンツェに住むアメリカ人美術史家のバーナード・ベレンソンに師事しました。ここでの研究は彼の職業的なキャリアにおいて重要であり、特にサンドロ・ボッティチェッリに関する研究は国際的な評価を得ました。この研究成果をまとめた著作『Sandro Botticelli』は、彼の名声を大いに高めました。

また、彼は浦安の企業家松方幸次郎の絵画購入に同行し、印象派やポスト印象派の作品に関して貴重なアドバイスを提供しました。その結果が「松方コレクション」の形成に繋がりました。特に、彼が強く勧めたゴッホやルノワールの作品が後に松方によって購入されたというエピソードは、彼の影響力を如実に示しています。

教育と公職

帰国後、矢代は東京美術学校や大学で教職を務め、また1930年からは帝国美術院付属美術研究所の主任に就任しました。その後、所長として日本の美術研究を牽引しましたが、戦局が厳しくなる中で、美術が文化を維持する重要なフィールドであることを再認識し、その発展に尽力しました。

戦後は文化財保護法の制定にも関与し、日本の文化的遺産の保護に貢献しました。特に1960年には大和文華館の初代館長として、美術作品の収集と保存に尽力しました。

文化外交と著作活動

矢代はアメリカ人東洋美術史家ラングドン・ウォーナーとの友好関係から、戦時中の京都・奈良が空襲を免れた「ウォーナー伝説」を作り上げ、その文化的価値を広める役割も果たしました。

著作においても矢代は精力的であり、多数の書籍や論文を執筆しました。特に『西洋美術史講話』や『日本美術の特質』などの著作は、美術の研究を広める上で重要な役割を果たしました。彼の研究スタイルは、形式的な分析から視覚的な細部に注目したものであり、これには特に水墨画やボッティチェッリの作品に見られる独自の着眼点が反映されています。

最後の業績と影響

1963年には日本芸術院会員に選ばれ、1970年には文化功労者に認定されるなど、その業績は高く評価されました。1975年に心不全により84歳で亡くなりましたが、彼が日本に残した美術に対する影響は計り知れません。

矢代幸雄は、その豊かな知識と経験をもって、日本が国際舞台において文化国家として存在感を示す手助けをしました。彼の活動は、美術の研究や教育、国際的な文化交流において、今後も引き継がれていくことでしょう。

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