松方コレクション

松方コレクション：幻と Wiedervereinigung（再統一）の美術

松方コレクションは、実業家・松方幸次郎によって大正時代から昭和初期にかけて形成された、1万点を超える大規模な美術コレクションです。その内容は、日本の浮世絵約8000点と、西洋美術品約3000点を中心とし、他に中世ヨーロッパの板絵やタペストリーなども含まれていました。ここでは、松方コレクションの概要、収集の経緯、コレクションの行方について詳しく解説します。

コレクションの概要

松方幸次郎は、川崎造船所（現・川崎重工業）の社長を務めた人物であり、1916年頃からの約10年間、ヨーロッパ各地で美術品を収集しました。コレクションの中核は、西洋近代の絵画・彫刻と日本の浮世絵です。西洋美術コレクションには、モネの絵画やロダンの彫刻（特に『地獄の門』）など、重要な作品群が含まれています。

浮世絵コレクションは、美術商・山中定次郎を通じて、フランスの宝石細工師であり日本美術コレクターであったアンリ・ヴェヴェールから買い戻したものが中心です。喜多川歌麿、東洲斎写楽らの名品を含む、質の高いコレクションとして知られています。

収集の経過

松方は、内閣総理大臣を務めた松方正義の息子として生まれました。アメリカ留学後、川崎造船所の社長に就任し、第一次世界大戦による船舶需要の高まりを背景に業績を拡大しました。美術品収集を始めたのは、1916年からのヨーロッパ滞在時であり、ロンドンの画廊で絵画を購入したことがきっかけだったと言われています。

ロンドン滞在中には、ベルギー出身のイギリス人画家フランク・ブラングィンと親交を深め、彼を美術コレクションのアドバイザーとしました。1918年には、アンリ・ヴェヴェールから浮世絵約8000点を一括購入し、レオンス・ベネディットの仲介でロダンの代表作を購入しています。

2回目の収集旅行は1921年に行われ、パリでは成瀬正一の助けを借りて、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャン、クールベなどの作品を多数購入しました。印象派の巨匠モネとも直接交渉し、作品を購入しています。矢代幸雄の証言によれば、ゴッホの『ファン・ゴッホの寝室』とルノワールの『アルジェリア風のパリの女たち』を購入したエピソードも残されています。

コレクションの行方

松方は共楽美術館という美術館を設立する構想を持っていましたが、1927年の世界恐慌の影響で川崎造船所の経営が破綻し、コレクションは散逸してしまいます。日本にあったコレクションは担保となり、売立てにより西洋美術1000点以上が失われました。浮世絵コレクションは約8000点は皇室に献上され、後に東京国立博物館に移管されています。

海外で保管されていたコレクションも、火災や第二次世界大戦の影響を受けました。ロンドンで保管されていたコレクションは約900点が焼失し、パリにあったコレクションはフランス政府に接収されました。松方は晩年、フランスからの返還に備えてサインの練習をしていたと言われています。

返還とその後

1951年、サンフランシスコ講和会議において、吉田茂首相がフランスの外務大臣にコレクションの返還を要求し、一部が返還されることとなりました。しかし、重要な作品の一部はフランスに留め置かれ、絵画196点、素描80点、版画26点、彫刻63点、書籍5点の合計370点が、美術館を建設して展示するという条件付きで日本政府に返還されました。これらが基礎となり、1959年に国立西洋美術館が開館しました。

現在、国立西洋美術館はコレクションの調査や買戻しを続けており、近年では散逸した作品の所在確認が大きく進んでいます。2016年には、松方コレクション953点分の作品リストがロンドンで発見され、2023年には国立西洋美術館にて松方コレクション展が開催。幻のコレクションの全貌解明にむけて、研究が進められています。

松方コレクションは、日本の近代美術史において重要な位置を占めています。その収集の過程や散逸、そして一部返還というドラマは、美術愛好家だけでなく、歴史に関心のある人々にとっても興味深いテーマと言えるでしょう。

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