矢崎武夫

矢崎武夫：都市社会学の先駆者

矢崎武夫（1916年12月1日 - 2005年1月30日）は、日本の都市社会学者であり、慶應義塾大学名誉教授、元明星大学教授という経歴を持ちます。彼の研究は、日本の都市社会学に大きな影響を与え、国際的にも高い評価を受けています。

生涯と学問

1916年、東京の大森に生まれた矢崎は、慶應義塾大学経済学部を卒業後、東芝に入社。しかし、間もなく兵役につき中国を転戦するという経験をします。戦後、東芝に復職後、シカゴ大学大学院に留学し、ルイス・ワースやP.ハウザーといった著名な社会学者から都市社会学を学びました。この留学経験が、彼の研究に大きな影響を与えたことは間違いありません。

帰国後、慶應義塾大学で教鞭をとり、教授として多くの学生を育成しました。また、ハワイ大学や香港中文大学など海外の大学でも客員教授を務め、国際的な交流も積極的に行いました。

研究内容

矢崎武夫の研究は、単なるアメリカ社会学の紹介に留まらず、シカゴ学派の都市研究を批判的に継承し、日本独自の都市理論を構築した点に特徴があります。彼は、都市構造の中核をなすものを、政治的・軍事権力、官僚統制、経済的・宗教的支配であると捉え、ルイス・ワースのアーバニズム理論を批判的に検討しました。

彼の代表的な著作である『日本都市の発展過程』（1962年）とその理論編である『日本都市の社会理論』（1963年）は、都市研究における重要な業績として高く評価されています。これらの著作では、都市を単なる経済的な集積地としてではなく、権力構造や社会文化体制との関連において捉えるという独自の視点が展開されています。

矢崎は、都市を「一定の地域に、一定の密度をもって定着した一定の人口が、非農業的生産活動を営むために、種々な形態の権力を基礎に、水平的・垂直的に構成された人口」と定義しました。そして、都市は特定の政治、軍事、経済、宗教などの組織を通じて広範な地域と結合し、農村の余剰を吸収することによって存続すると考えました。この都市を統合体として捉える視点は、彼の研究の核心をなすものです。

国際的な評価と影響

『日本都市の発展過程』は、Social Change and the City in Japanとして英訳され、海外の研究者からも高い評価を受けました。彼の研究は、J.バーナードの『コミュニティ批判』など多くの研究書に引用され、フェルナン・ブローデルの『文明・経済・資本主義』をはじめとする欧米の歴史家の研究にも大きな影響を与えました。

矢崎は、常に海外に目を向け、中国やアメリカでの生活を通して得た経験を活かし、東南アジアの都市、特に香港に関心を寄せました。また、得意の英語力を生かして、アメリカやヨーロッパ各地で数多くの講演を行い、国際的な学術交流に貢献しました。

著作

『都市社会学研究』金文堂,1960年
『日本都市の発展過程』弘文堂,1962年
『日本都市の社会理論』学陽書房,1963年
『現代大都市構造論』東洋経済新報社,1968年
『国際秩序の変化過程における発展途上国の都市化と近代化』慶應通信,1988年
(1968): Social Change and the City in Japan, Japan Puplications Inc. Tokyo
(1973): The History of Urbanization in Japan, Aidan Southhall(ed.) Urban Anthropology, Oxford University Press.

参考文献

渡戸一郎「追悼　矢崎武夫先生」『明星大学社会学研究紀要』第26号,2006年
* 藤田弘夫「矢崎武夫―国際的な都市社会学者」川合隆男・竹村英樹編『近代日本社会学者小伝』勁草書房,1998年

矢崎武夫は、日本の都市社会学の発展に大きく貢献しただけでなく、国際的な学術交流を積極的に行った先駆的な研究者でした。彼の研究は、現代の都市問題を考える上でも重要な示唆を与えてくれます。

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