矢橋六郎

矢橋六郎：芸術と実業の才能を兼ね備えた多才な人物

矢橋六郎（やばし ろくろう）は、1905年11月16日に岐阜県不破郡美濃赤坂で生まれ、1988年7月4日にその生涯を閉じました。彼は、単なる画家としてだけでなく、実業家としてもその才能を発揮し、多岐にわたる分野で顕著な業績を残しました。

生い立ちと芸術への道

矢橋六郎の家系は、嵯峨天皇の皇子である源融にまで遡るとされ、由緒ある家柄の出身です。彼は県立岐阜中学校を経て、1924年に川端画学校で絵画の基礎を学び始めました。その後、1926年には東京美術学校（現在の東京芸術大学）西洋画科に入学し、1930年に卒業しました。卒業後、彼はヨーロッパに渡り、フォービズムやキュビスムといった当時の最先端の美術運動から大きな影響を受けました。

美術家としての活動

ヨーロッパ滞在中に梅原龍三郎に師事し、梅原が創立した国画会に参加しました。1932年には同会の会友となりますが、1933年に帰国し、同会を退会します。1936年には、山口薫や村井正誠らと共に自由美術家協会を創立し、新たな美術の潮流を築こうとしました。

実業家としての側面

1939年、家業である矢橋大理石商店に勤務することになりますが、絵画制作も継続しました。1941年には満州に渡り、矢橋大理石廠株式会社に勤務しました。第二次世界大戦後、1946年に帰国すると、矢橋大理石商店の取締役に就任し、実業家としての手腕を発揮します。1950年には村井正誠らと共にモダンアート協会を創立し、美術界への貢献も続けました。

モザイク作家としての功績

矢橋六郎は、モザイク作家としても広く知られています。彼の代表作には、大名古屋ビルヂングの「海」（1962年）、新東京ビルヂングの「彩雲流れ」（1965年）、名古屋駅新幹線口の「日月と東海の四季」、新大阪駅貴賓室の「松と海」、岐阜県庁の「春・夏・秋・冬」、丹鶴ホールの「熊野」（デザインは村井正誠）などがあります。これらの作品は、モザイクの豊かな表現力を活かし、多くの人々に感動を与えました。

地域社会への貢献と晩年

矢橋六郎は、美術教育にも熱心であり、武蔵野美術大学や東京芸術大学で教鞭を執りました。1969年には岐阜県教育委員長に就任し、郷里の振興に大きく貢献しました。その功績は多方面から評価され、1966年中日文化賞、1973年大垣市文化功労賞、1975年岐阜県知事賞、1978年東海テレビ賞、1980年岐阜日日特別功労賞、1984年文部大臣表彰など数々の賞を受賞しました。1978年には東京セントラル美術館で「矢橋六郎画業50年展」が開催され、その芸術活動が広く紹介されました。

晩年にはステンドグラス制作にも取り組み、新たな表現の可能性を追求しました。

モダンアート展への出品作品

矢橋六郎はモダンアート展にも多数の作品を出品しました。
第5回展（1955年）：「無花果」、「田植の頃」、「桃果」、「麦刈」、「メヌエット」
第10回展（1960年）：「田園の冬」、「ベニスの橋」
第15回展（1965年）：「田園冬日」
第20回展（1970年）：「春」
第25回展（1972年）：「サンジオルジオベニス」
第30回展（1980年）：「ポルトガルの夏」
第35回展（1985年）：「砂丘」
第38回展（1988年）：「ローマのテラス」

家系

矢橋家は、遠祖を嵯峨天皇にまで遡るとされる名門です。矢橋六郎の祖父は矢橋宗太郎であり、父は矢橋大理石の創業者である矢橋亮吉です。また、親族には多くの実業家や文化人が名を連ねています。特に、国会議事堂の設計に携わった矢橋賢吉や、世界一の精度を誇る「矢橋式日時計」を考案した矢橋徳太郎などが有名です。

結論

矢橋六郎は、芸術家としてだけでなく、実業家、教育者としてもその才能を発揮し、多岐にわたる分野で顕著な業績を残しました。彼の生涯は、芸術と実業の両面で成功を収めることができるということを示す好例と言えるでしょう。その多才な活動は、後世に大きな影響を与え続けています。

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