村井正誠

村井正誠：抽象絵画のパイオニアとその軌跡

村井正誠（1905年-1999年）は、日本の近代洋画史において重要な役割を果たした画家です。岐阜県に生まれ、幼少期を和歌山県新宮市で過ごしました。新宮で出会った西村伊作の作品に感銘を受けたことが、彼の芸術家としての道を歩むきっかけとなりました。

旧制新宮中学校卒業後、上京した村井は川端画学校で研鑽を積み、アテネフランセで語学を学びました。その後、文化学院大学部美術科に入学し、石井柏亭、正宗得三郎ら巨匠たちから指導を受けました。在学中には二科展に入選するなど、早くから才能を発揮しています。

1928年、村井はフランスへ留学。パリで藤田嗣治や海老原喜之助と出会い、モンパルナスで制作活動に励みました。ヨーロッパ各地を旅する中で、エトルリア美術やビザンティン美術など、古代美術に触れ、大きな影響を受けました。モンドリアンやマティス、ピカソといった前衛芸術家たちの作品にも感銘を受け、それまでの具象風景画から抽象絵画へと作風を転換していきます。

帰国後は、文化学院の講師として後進の指導にあたり、独立美術協会展や新時代洋画展などに参加。山口薫、矢橋六郎ら同世代の画家たちと交流を深め、日本の近代美術を牽引しました。戦時中は、美術創作家協会の活動にも携わりました。

戦後、日本美術会や日本アヴァンギャルド美術家クラブなど、数々の美術団体を設立・参加し、美術界の活性化に貢献しました。東京教育大学非常勤講師や武蔵野美術大学教授を務め、教育者としても活躍。武蔵野美術大学名誉教授の称号も授与されています。

村井は、抽象絵画において独自の表現を追求し続けました。幾何学的な構成や、力強い色彩感覚、そして繊細な線描は、彼の作品を特徴づけています。代表作として、「URBAIN」シリーズなどが挙げられます。

数々の受賞歴も輝かしいものです。現代日本美術展最優秀賞、東京国際版画ビエンナーレ展文部大臣賞などを受賞。また、日本美術家連盟理事長も務めました。新宮市名誉市民の称号を贈られ、和歌山県文化賞を受賞するなど、地元への貢献も大きかったです。

晩年、村井は神奈川県立近代美術館、大原美術館、岐阜県美術館などを巡回する大規模な個展を開催。そして、彼の妻、伊津子によって、生前のアトリエ兼自宅を改装した村井正誠記念美術館が設立されました。

村井正誠は、抽象絵画の草分けとして、そして教育者として、日本の美術界に大きな足跡を残しました。彼の作品は、現在も多くの人の心を捉え、日本の近代美術史を語る上で欠かせない存在となっています。彼の生涯は、情熱と探求心を持って芸術に生涯を捧げた、一人の画家の物語です。また、彼の作品は、時代を超えて人々の心に響き続ける、普遍的な美しさを持っていると言えるでしょう。彼の作品が、多くの美術愛好家によって鑑賞され、未来へと受け継がれていくことを願っています。

主な活動年表

1905年：岐阜県に生まれる
1928年：渡仏、パリで制作活動
1932年：帰国
1933年：結婚
1938年：文化学院講師
1949年：日本美術家連盟発足に参加
1954年：武蔵野美術大学教授
1966年：日本美術家連盟理事長
1970年：新宮市名誉市民
1975年：武蔵野美術大学名誉教授
1997年：中日文化賞、世田谷区文化功労者を受賞
1999年：逝去
2005年：村井正誠記念美術館開館
2015年：生誕110年記念展開催
* 2021年：新宮市民会館の壁画が丹鶴ホールに移設

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