知識 (仏教)

知識（ちしき）

知識とは、仏教において信者が善業を積むために、寺院や仏像の建立・維持、写経、福祉事業などのために金品を寄進する行為を指します。また、寄進を行った人々や、寄進された金品そのものを指すこともあります。

概要

元々は、仏道修行者を指導する善知識（ぜんちしき）の略称でした。しかし時代が下るにつれて、僧侶や尼僧の勧めに従って、仏事や法会に様々な形で協力する人々を広く指すようになりました。知識となった人々は、知識結（ちしきゆい）と呼ばれる団体を組織しました。

通常、仏事を主催しようとする発願主が知識結の代表である知識頭（ちしきがしら）を務めました。そして、知識文と呼ばれる趣意書を作成し、人々に協力を求めました（「知識を率いる」「知識を勧める」）。これに応じた人々によって知識結が組織され、知識物（ちしきぶつ）と呼ばれる財物や労力を提供することで、仏教信仰に関連した様々な事業の実現を通して人々が結縁を図りました。

中国の北朝時代には、主に「邑義（ゆうぎ）」や「法義（ほうぎ）」という名称が用いられましたが、朝鮮半島や日本では「知識」という名称が用いられました。中国に仏教が伝来した魏晋南北朝時代は、戦乱によって従来の血縁・地縁集団が解体され、人々の移住が相次ぎました。そのような状況下で、大乗仏教の利他思想と、他者と結びつき救済するという中国の義の観念が融合し、同じ仏教徒の間で血縁や地縁を超えた共同での造寺・造仏・慈善事業が行われたと考えられています。特に、仏教奨励と廃仏政策の間で揺れ動いた北魏では、邑義や法義の願文に皇帝を称賛する文言を入れることで、仏教徒が国家への忠誠を示す場としても利用されました。

一方、朝鮮半島や日本では知識という語が用いられましたが、現存する仏像の願文に記された文言などから、6世紀の高句麗で知識という語が生まれ、新羅・倭国（日本）に伝えられたと推測されています。

日本では、623年の年紀を持つ法隆寺金堂釈迦三尊像光背銘に、聖徳太子の后や王子、諸臣ら「道を信じる知識」が太子の病気平癒を願って作られたことが記されています。奈良時代には、こうした知識の活動が盛んになり、各地に知識あるいは知識結によって建立された知識寺（ちしきじ）が建てられました。特に河内国にあった知識寺は著名であり、740年（天平12年）には聖武天皇も同寺に行幸し、廬舎那仏（大仏）を参詣しました。また、同時期に行基が各地に設置した道場も、行基を信奉する知識の支援を受けていたと考えられています。聖武天皇は、河内の知識寺や行基集団の影響を受け、743年（天平15年）に「廬舎那仏造立詔」を発し、各地の知識に廬舎那仏造立への協力を求めました。こうして完成した廬舎那仏像を収めた東大寺も、広い意味での知識寺の体裁を取って建立されたものでした。同様に、聖武天皇が各地に設置させた国分寺・国分尼寺も、現地の豪族などからなる知識層の支援があって初めて建立・維持が可能となりました。

知識寺の建立のような大規模なものだけでなく、知識によって行われる知識経と呼ばれる写経事業など、より小規模な知識の活動も行われました。

東大寺や国分寺に見られるように、国家が鎮護国家政策において知識を利用したことで、知識結などの独自の活動は衰退していきました。しかし、中世には知識活動が新たな勧進活動へと転化していくことになります。

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