知識青年

知識青年（知青）

「知識青年（ちしきせいねん、中国語: 知识青年）」、略して「知青（ちせい、知青）」とは、中華人民共和国において、1950年代初頭から文化大革命が終結するまでの時期に、都市部から農村部や辺境地域へ移り住み、肉体労働に従事した青年たちのことを指します。これは主に「上山下郷運動」と呼ばれる政策の一環として、あるいは自らの意思や強制によって実施されました。

一般的に知識青年という言葉は、大学などで高等教育を受けた知識人を指すことが多いですが、この時代の中国で「知青」と呼ばれた人々の大多数は、実際には初等教育や中等教育の修了者であり、大学レベルの教育を受けた者はごく一部でした。彼らは、都市を離れて農村で生活し、厳しい労働を経験することになります。

運動の背景と開始

中華人民共和国建国後、都市部では人口増加に伴う失業が問題となっていました。この課題に対処するため、1950年代初めから、都市の青年層を組織的に農村、特に未開拓の辺境地域へ送り出し、新たな農場を建設させる取り組みが開始されました。1953年には『人民日報』が、高等小学校卒業生を農業生産に参加させることを奨励する社説を発表しています。

この動きは、1955年に毛沢東が「農村は広大な天地であり、そこでは大いにやりがいのあることができる」と述べたことでさらに勢いづきました。この言葉は、その後の上山下郷運動の代表的なスローガンとなっていきます。1955年以降、中国共産主義青年団は青年に農業生産を奨励しました。

1962年からは、この都市青年を農村へ送る運動を全国的に展開すべきだという議論が起こり、1964年には中国共産党中央委員会内に運動を指導するための組織が設置されます。

そして1966年に文化大革命が始まると、全国的な大学入試（高考）が停止されました。これにより、多くの学生が進学や就職の機会を突然失い、彼らの行き場が問題となりました。

1968年12月22日、『人民日報』は「私たちにも両手がある、都市でぶらぶらしているな」と題する社説を掲載し、その中で毛沢東の「知識青年は農村へ行き、貧しい下層中層の農民から再教育を受けることが是非とも必要だ」という言葉を引用しました。これは、都市の若者を農村へ送る政策の必要性を強く訴えるものでした。これを受け、1969年には多くの青年が「下放（かほう）」と呼ばれる形で、組織的に農村部へ送り出されることになります。特に多くの中等教育学校の生徒が対象となりました。

農村での現実と問題点

1962年から1979年にかけて、下放された青年は少なくとも1600万人、一説には1800万人以上に上ると推定されています。彼らの送り先は内モンゴル自治区のような遠隔の辺境地域から、出身都市からそれほど離れていない同じ省内の農村部まで様々でした。例えば、上海の紅衛兵の多くは、行政区画上は上海市に含まれる長江河口部の島々など、比較的近隣の農村へ送られました。

運動が大規模化し長期化するにつれて、農村での厳しい生活や様々な問題点が明らかになってきました。1971年頃からは、運動に伴う歪みが無視できなくなり、農村から都市へ帰還した青年たちに雇用機会を提供する動きも始まりました。多くの知青は、個人的なコネを使って都市に戻る手段を探りました。

1971年に起きた林彪事件に関連して作成されたとされる文書「五七一工程紀要」では、この上山下郷運動が実質的には知識人や若者に対する偽装された懲罰労働、一種の労働改造であると厳しく非難されています。

1976年には毛沢東自身も運動の深刻な状況を認識し、問題の再検討を指示したとされています。しかし、それでも年間百万人以上の青年が農村へ送られ続けるという状況は変わりませんでした。多くの知青が農村での過酷な生活環境に耐えられず、中には命を落とした者も数多くいたとされます。

運動の終焉と知青たちの帰還

毛沢東が死去した1976年以降も、下放された青年たちの多くは農村に留まらざるを得ませんでした。現地で根を下ろし、結婚する者も現れました。

しかし、1977年に大学入試（高考）が再開されると、多くの知青が都市への帰還を強く望むようになります。特に1978年冬には、雲南省で下放されていた青年たちが大規模なストライキや政府への請願活動を行い、自分たちの置かれた窮状を強く訴えました。この動きは、中国共産党指導部に知青問題の緊急性を改めて認識させる大きなきっかけとなりました。

こうした声の高まりを受け、1980年3月、当時の中国共産党中央委員会総書記であった胡耀邦が、上山下郷運動の実質的な終結を提案しました。そして同年10月1日、共産党は運動の終結を正式に決定し、農村に送られていた青年たちに、都市部に残る家族のもとへ帰還することを許可しました。ただし、既婚者の場合は、未成年で未婚の子ども一人だけを同伴して帰還することが認められるなど、制限もありました。

1970年代後半には、知青たちの農村での過酷な経験や、文化大革命がもたらした社会の歪みをリアルに描いた文学作品が数多く発表されました。これらは「傷痕文学」と呼ばれ、特に知青の体験を描いたものは「知青文学」「知識青年文学」とも称されました。これらの作品群は、それまであまり表に出てこなかった文化大革命の人的・社会的犠牲を、初めて中国社会、そして世界に広く知らしめる役割を果たしました。知青たちの経験は、現代中国社会の形成に深い影を落としています。

もう一度検索