石上良平

石上良平（いしがみ りょうへい）は、1913年に生まれ、1982年11月9日に亡くなった日本の政治学者である。専門は社会思想史、とりわけイギリス政治思想の研究で知られる。昭和期において、教育者、研究者、そして翻訳者として、日本の政治学・社会思想史研究の発展に多大な貢献を果たした人物である。

学歴と初期の活動

石上は、旧制静岡県立静岡中学校を経て旧制静岡高等学校文科甲類に進学し、深く学問を修める素養を培った。1936年には東京帝国大学経済学部を卒業。在学中は、当時著名な経済学者であり社会思想史家でもあった河合栄治郎に師事し、その思想的影響を強く受けた。河合門下生として、経済学のみならず幅広い社会科学への関心を深めた。

大学教授としてのキャリア

大学卒業後、研究職の道に進んだ石上は、1949年に開設された成蹊大学政治経済学部の創立期に教授として迎えられた。この時期の成蹊大学には、丸山眞男をはじめとする当時の日本を代表する学者たちが集まっており、石上もその一人として新しい学部の基礎作りに尽力した。担当科目は、政治学の基礎を学ぶ「政治学概論」と、自身の専門分野である「社会思想史」であった。ここで長年にわたり教鞭を執り、多くの学生に政治学や思想史の知識と思考法を伝えた。1967年に成蹊大学を退職した。

研究業績と著書

石上良平の研究の中心は、イギリスの政治思想史にあった。その深い研究成果は、1958年に創文社から刊行された主著『英国社会思想史研究』に集約されている。この著作は、イギリスにおける社会思想の変遷を歴史的に詳細に分析したものであり、この分野の基礎的な文献として重要視されている。また、専門研究の傍ら、社会科学全体を俯瞰する視点も持ち合わせており、1952年には『社会科学用語辞典』（弘文堂・アテネ文庫）を著している。この辞典は、社会科学の基本的な概念や用語を分かりやすく解説したもので、当時の学生や研究者にとって有用な手引きとなった。さらに、日本の近代政治史に関心を持ち、原敬没後の政党政治を論じた『政党史論 原敬歿後』（中央公論社、1960年）や、ルネサンス期のイタリアの政治思想家ニコラ・マキアヴェッリに関する著作『マキアヴェリ』（世界思想家全書、牧書店、1967年）なども執筆している。これらの著作を通じて、国内外の政治思想や政治史に対する幅広い知見を示した。

翻訳活動を通じた貢献

石上良平の業績の中で特に際立っているのは、その広範かつ重要な翻訳活動である。彼は、海外の優れた社会思想や政治学の文献を精力的に日本語に翻訳し、日本の学術界に紹介した。主な翻訳書には以下のようなものがある。

J.S.ミル『学問の理想』『社会主義論 遺稿』
ハロルド・ラスキ『ヨーロッパ自由主義の発達』『国家 理論と現実』『フランス革命と社会主義』（安藤英治共訳）
カール・ベッカー『現代民主主義論』（関嘉彦共訳）
ジヤック・バルザン『人間の自由』
E.H.カー『カール・マルクス その生涯と思想の形成』
グレーアム・ウォーラス『政治における人間性』（川口浩共訳）
J.H.プラム『イタリア・ルネサンス』
ダントレーヴ『国家とは何か 政治理論序説』

これらの翻訳は、当時の日本の政治学や社会思想史の研究者、学生にとって、海外の最先端の学術成果に触れる上で非常に貴重な役割を果たした。特に、自由主義や民主主義、国家論、社会主義といったテーマに関する古典や現代の重要な議論を紹介した功績は大きい。共訳の形でも、多岐にわたる分野の文献を紹介している。

結び

教育者として人材育成に携わり、研究者として社会思想史、特にイギリス政治思想の分野で深い業績を残し、さらには多数の翻訳を通じて海外の重要な学術成果を日本に紹介した石上良平は、日本の政治学・社会思想史研究史において重要な位置を占める人物と言えるだろう。彼の著作や翻訳は、今なお参照される価値を持つものが多い。

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