石匙

石匙（いしさじ/せきひ）は、黒曜石や頁岩、チャートなどの石材を打ち欠いて作られた打製石器の一種であり、剥片石器に分類されます。

概要

石匙は、剥片の両端を打ち砕き、つまみ状の突出部を設けた独特の形状をしています。「匙（さじ）」という名称は、この形状が由来です。江戸時代の考古・金石学研究において、木内石亭が「天狗の飯匕（めしかい）」という俗称を紹介したのが始まりとされています。明治時代には神田孝平が「石匙」という呼称を用い、中谷治宇二郎が体系的な研究を行いました。しかし、その形状から「匙」と名付けられてはいるものの、スプーンとして使用されたわけではありません。

縄文時代草創期に出現し、早期には広く普及しました。特に東北地方に偏って出土する傾向があり、朝鮮半島南部でも見られます。使用痕の観察から、動物の皮や肉、角や骨といった動物質の加工や、木や蔦などの植物質の加工など、多様な用途に用いられたと考えられています。現代でいうところの携帯万能ナイフのような役割を果たしていたのでしょう。突出部に紐や天然アスファルトが付着した状態で出土したり、石匙を身につけたまま埋葬された例も報告されています。これらのことから、紐を巻き付けて首にかけたり腰に巻いたりして持ち運んでいたと考えられており、上野佳也は個人所有を明確にするための道具として位置づけています。

形状の種類と変遷

石匙には、突出部（つまみ）から見て刃が縦に両側または片側に付いたもの（縦型）と、突出部と直角に付けられたもの（横型）、そして両者の中間型があります。時期的には、縦型の方が早く出現し、東北地方から北海道にかけての縄文時代早期の遺跡から多く出土しています。横型はまず西日本に現れ、前期初頭には関東地方に波及、前期後半には東北地方北部から北海道西南部にまで広がりますが、中期以降になると縄文文化の全域で横型が主流となります。石材は、東北地方では形質頁岩、関東・中部地方では珪岩・黒曜石、西日本ではサヌカイトが多く用いられています。これらの違いは、時代や地域による文化的な差異を反映しており、縄文文化の多様性を示す遺物の一つと言えるでしょう。

その他

興味深いことに、エスキモーが動物の皮を剥ぐ際に使用する石器の形状が、日本の石匙と酷似しています。これは、異なる地域や文化においても、同様の目的のために類似の道具が用いられていたことを示唆しています。

脚注

* 剥片石器

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