石原八束

石原八束は、1919年（大正8年）に山梨県で生まれ、1998年（平成10年）に生涯を閉じた俳人です。本名は登でしたが、生後間もなく八束と改名されました。父親も俳人であり、幼い頃から俳句に触れる環境で育ちました。

俳人としての本格的な活動は、1937年（昭和12年）に父の師である飯田蛇笏に師事したことから始まります。飯田蛇笏が主宰する俳誌「雲母」に投句を始め、俳人としての基礎を築きました。1943年（昭和18年）には中央大学法学部を卒業しますが、その後も俳句への情熱は衰えることなく、1947年（昭和22年）からは「雲母」の編集に携わりました。

1949年（昭和24年）からは、三好達治に師事し、俳句の表現の幅を広げます。第一句集である『秋風琴』は三好によって命名されたことでも知られています。1956年（昭和31年）には、俳誌「馬酔木」に「内観造型への試論」を発表し、独自の俳句理論を展開しました。1961年（昭和36年）には、松澤昭とともに俳誌「秋」を創刊し、主宰として俳壇に大きな影響を与えました。

石原八束の作風は、病弱であった自身の経験から、内面を深く見つめることを重視するものでした。飯田蛇笏の主観写生の影響を受けつつも、外的な自然を単に描写するのではなく、自然の中に身を置きながら人間の内面を見つめる「内観造型」という独自の境地を切り開きました。代表作である「くらがりに歳月を負ふ冬帽子」は、その作風をよく表しています。

また、境涯性を帯びた句風は、晩年になるにつれて暗喩的・象徴的な表現へと発展していきました。「黒凍みの道夜に入りて雪嶺顕つ」などの句が、その象徴的な句風を示しています。晩年は、「宇宙感覚」と自ら呼ぶものを重視し、エジプトや中国への旅を通して、「わが詩の仮幻に消ゆる胡砂の秋」「ナイル河の金の睡蓮ひらきけり」など、スケールの大きな作品を生み出しました。

石原八束は、その生涯で数多くの句集や評論集を刊行しました。1976年（昭和51年）には、第六句集『黒凍みの道』で芸術選奨文部大臣賞を受賞、1997年には現代俳句協会大賞を受賞するなど、俳人としての業績は高く評価されています。また、現代俳句協会や俳人協会の顧問も務めるなど、俳壇の発展に尽力しました。

主な著書には、『秋風琴』『雪稜線』『空の渚』『黒凍みの道』などがあります。また、評論集として『現代俳句の世界』や『三好達治』などがあります。石原八束の作品は、自然と人間の内面を深く見つめ、独自の言葉で表現したものであり、現代俳句の世界において重要な位置を占めています。没後も多くの読者に愛され続けています。

石原八束の俳句は、単なる風景描写に留まらず、人間の内面や感情を深く掘り下げ、象徴的な表現で読者の心に響きます。その作品は、俳句の可能性を広げ、後世の俳人に大きな影響を与えました。

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