石塚太喜治

石塚太喜治：美術史研究者から油彩画家へ

石塚太喜治（1908年-1994年）は、日本の美術史研究者、美術教育者、そして洋版画家として多岐にわたる活躍を見せた人物です。千葉県に生まれ、幼少期から絵画の才能を認められ、恵まれた教育環境の中で育ちました。千葉県立成東中学校を経て、第六高等学校、東京帝国大学文学部美学美術史学科に進学。卒業論文では「十九世紀以降の欧州絵画」をテーマに、色彩の展開に着目し、近代絵画の本質を詳細に分析しました。大学時代には藤懸静也に師事する傍ら、二科会や橋本八百二絵画研究所にも通い、研鑽を積みました。

大学卒業後、東洋芸術への関心を深め、東京帝国大学大学院に進学。「東洋画における線の研究」で学位を取得しました。大学院在学中には版画家としても活動し、『エッチング』誌に作品を発表。西田半峰らと交流を深め、同誌に連載を持つなど、早くから注目を集めていました。

1939年、外務省の選抜により、中華民国臨時政府の支配下にあった北平（現北京）へ留学。北京大学講師や北京育成学校副校長などを経て、北平芸術専科学校（現中央美術学院）教授に就任。東洋画の研究を続けながら、東西両洋の芸術研究を融合した新しい芸術学、芸術史の分野を開拓しようと試みました。興亜美術展覧会の審査員も務め、中国における美術教育にも貢献しました。この間も版画制作は続け、日本エッチング展に出品するなど、旺盛な創作活動を展開しました。

終戦後、日本に帰国した石塚は、千葉大学や日本女子大学で講師を務めました。美術貿易の事業も構想しましたが、資金難で断念。その後、近所の子供たちの絵を見て感銘を受け、自宅に石塚画塾を開設。さらに、東金小学校に招かれ、絵画指導を始めました。その指導法は、アカデミックな画風にとらわれず、子供たちの個性を自由に表現させることに重点を置いていました。全国児童美術展では、石塚画塾から多くの入選者を輩出し、全国有数の絵画学校として知られるようになりました。

1957年、美術史研究者の道を離れ、油彩画家として転身。日本各地の風景を描き始めました。妻と別れた後、再婚し、後妻と日本各地を巡りながら風景画を制作。しかし、1960年代に脳溢血で倒れ、車椅子生活を余儀なくされ、長く病と闘いました。1994年、東京都文京区で亡くなりました。

石塚太喜治は、美術史研究者、美術教育者、そして洋版画家という複数の顔を持つ稀有な存在でした。彼の生涯は、学問への探究心、教育者としての情熱、そして芸術家としての創造性を兼ね備えた、波瀾万丈の人生でした。その活動は、日本の美術界に多大な影響を与え、後世に長く語り継がれるべきものです。主な作品は和歌山県立近代美術館、宮崎県都城市立美術館、大分県別府市美術館など各地の美術館に収蔵されています。彼の残した研究論文や著書、そして数々の油彩画は、今もなお多くの人々に感動と教示を与え続けています。彼の業績は、日本の美術史における重要な一頁を刻んでいると言えるでしょう。

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