石川幹子

石川幹子（いしかわみきこ）は、1948年 10月27日に宮城県岩沼市で生まれた、日本の著名なランドスケープ・アーキテクトです。環境デザインおよび都市環境計画を専門とし、長年にわたり研究、教育、そして実務の分野で日本の都市景観や環境保全に貢献してきました。

学歴とキャリア形成

幼少期を岩沼市で過ごし、ミッションスクールの宮城学院で中高時代を送りました。学生時代には、自然や都市環境に対する問題意識を抱き、「理不尽な開発をなくすための学問」を志し、東京大学農学部に進学します。1972年に同大学を卒業後、一時不動産会社での勤務を経験しますが、その後アメリカ合衆国に渡り、ランドスケープ・アーキテクチュアの分野で世界的に著名なハーバード大学デザイン大学院にて学びを深め、1976年に修士課程を修了しました。

帰国後は、東京ランドスケープ研究所に所属し、専門家としてのキャリアを本格的にスタートさせます。この期間には、新宿御苑トンネル整備における復旧設計やお台場海浜公園の計画など、数々の重要なプロジェクトに携わりました。これらの実務経験を経て、東京大学大学院で研究を続け、「パークシステムの成立と展開に関する歴史的研究」に関する論文で博士号（農学）を取得しました。

大学教員としてのキャリアは、1997年に工学院大学で始まり、その後、慶應義塾大学環境情報学部教授、東京大学大学院工学系研究科都市工学科教授を歴任しました。現在は中央大学研究開発機構の機構教授として、グリーンインフラ研究室で後進の指導にあたる傍ら、東京大学名誉教授の称号も有しています。

専門分野と社会活動

石川幹子氏の専門は、環境デザインと都市環境計画です。都市における緑地の役割、歴史的景観の保全、そして人と自然が共生する持続可能な都市のあり方を追求しています。その専門知識と経験は高く評価されており、技術士（都市及び地方計画）の資格を持ち、日本学術会議会員としても活動しています。

また、学会活動においても中心的な役割を担い、日本学術会議環境学委員会委員長を務めたほか、日本建築学会、日本都市計画学会、日本造園学会、土木学会など、幅広い分野の学会会員となっています。さらに、東京都をはじめとする多くの自治体で、自然環境保全審議会、都市計画審議会、公園審議会などの委員を歴任し、都市政策や環境行政に対する提言を行っています。

東日本大震災からの復興においては、出身地である宮城県岩沼市の震災復興会議議長として、地域の再生計画に深く関わりました。また、文化遺産の保全にも力を入れており、日本イコモス国内委員会文化的景観小委員会主査として、文化的景観の保護に関する活動も行っています。

神宮外苑再開発への提言

近年、特に注目されているのは、明治神宮外苑の再開発計画に対する彼女の強い懸念表明です。日本イコモス国内委員会理事の立場から、都市計画公園上に高層ビル建設を可能とする東京都の「公園まちづくり制度」を「前代未聞の異常な都市計画」と批判しています。この制度を利用した神宮外苑の再開発計画については、「セントラルパークに超高層ビルを建てるようなもの」「東京は魂を失うことになる」として、計画の見直しを強く訴えています。

彼女は、神宮外苑を「17世紀から続く東京の庭園都市パークシステムの中核」と位置づけ、再開発による樹木の伐採や景観の変化が、この歴史的に重要な緑地システムを破壊するとの危機感を示しています。具体的には、樹木の伐採を最小限にとどめるよう提言したり、現地での説明会等を通じて、個々の樹木が持つ文化的価値や歴史を強調し、再開発計画の中止を訴えています。

さらに、神宮外苑での再開発が許されれば、他の都心部でも同様の計画が波及する可能性を危惧しており、日本の都市緑地や文化的景観の保全に対する広範な影響について警鐘を鳴らしています。計画を進める事業者側の見解に対しては、科学的根拠の不足を指摘し、謝罪を求めるなど、専門家として毅然とした態度で臨んでいます。

主な業績と受賞

石川氏の専門家としての貢献は、数々のプロジェクトと受賞歴に表れています。代表的なものとしては、都立武蔵野中央公園の設計、長崎市中島川の河川整備、各務原市の水と緑の回廊計画や「学びの森」「瞑想の森」のランドスケープデザイン、玉川上水・内藤新宿分水散歩道などが挙げられます。これらの業績は、都市公園コンクール建設次官賞、緑の都市賞（内閣総理大臣賞）、みどりの学術賞（内閣総理大臣賞）、土木学会デザイン賞最優秀賞など、国内の主要な賞を多数受賞しています。

国際的な活動としては、ハーバード大学デザイン学部大学院での客員教授を務めたほか、ロシアのウファや中国の瀋陽市、四川大地震からの復興を目指す都江堰市など、海外の都市環境計画やランドスケープデザインプロジェクトにも参画し、その成果は国際的な競技設計での受賞にもつながっています。

編著書

主な編著書には、『都市と緑地新しい都市環境の創造に向けて』（岩波書店）、共編著に『流域圏プランニングの時代自然共生型流域圏・都市の再生』（技報堂出版）などがあり、専門分野における研究成果や思想を広く発信しています。

石川幹子氏は、ランドスケープ・アーキテクトとして、また教育者、研究者、社会活動家として、日本の都市環境と景観の未来に対し、深い洞察と熱意を持って貢献を続けています。

もう一度検索