石油ポンプ

石油ポンプ（灯油ポンプ）とは

石油ポンプ、または灯油ポンプは、サイフォンの原理を応用した液体移送用のポンプです。主に灯油を容器から別の容器へ移し替える際に使用されます。日本工業規格（JIS）では、JIS S 2037において「石油燃焼機器用注油ポンプ」として規定されています。英語では、用途を問わず「サイフォンポンプ（Siphon Pump）」と呼ばれます。

構造

一般的な石油ポンプは、ポンプ本体から下方向に伸びる管と、その付け根付近から横に伸びる蛇腹状の管という構造をしています。管の分岐部には逆止弁が設けられており、液体の流れは下側の管から横側の管へと一方通行です。

ポンプの作動方式には、復元力のある樹脂製筒を握って液体を押し出し、離すと液体を吸い込む手動式と、乾電池で作動する電動式があります。電動式ポンプには、注ぎ口にセンサーが搭載され、タンクが満タンになると自動的に停止する機能があり、灯油の溢れ出しを防ぎます。

使用方法

石油ストーブへの給油を例に説明します。まず、ポンプ上部にある空気弁のネジ栓を締めた状態で、下側の管を石油缶に、横側の管をストーブのタンクにそれぞれ差し込みます。この状態でポンプを操作すると、石油缶から灯油が吸い上げられます。灯油の液面が管の分岐点に達すると、灯油は横の管を通ってストーブのタンクへ流れ込みます。石油缶側の液面がストーブタンクよりも十分に高ければ、ポンプ操作なしでもサイフォンの原理によって自動的に灯油が流れ続けます。給油を停止する際は、ポンプ上部のネジ栓を緩めれば、流路に空気が入りサイフォンの効果が失われ、灯油の流れが止まります。石油缶側の液面が低い場合は、ポンプ操作を継続することで給油が可能です。

使用後、ポンプ内部に灯油が残ったまま放置すると、樹脂部品が劣化する可能性があるため、ポンプは立てた状態で保管することが推奨されます。

歴史

石油ポンプの歴史は古く、1907年には山縣時輔氏によって、ゴム球を用いた手動ポンプ「生花水吸取器」が考案され、特許登録されました。これは主に花瓶の水を排出する目的のもので、逆止弁がなく、水を吸い上げる際には出口を指で塞ぐ必要がありました。

1926年には、ヴィクター・W・ヘランダー氏が、逆止弁と空気弁を備えた現在の石油ポンプとほぼ同じ機能を持つ「サイフォンポンプ」をアメリカで特許取得しました。

日本においては、1947年に中松義郎氏が、醤油の移し替えを目的としたプラスチック製手動ポンプ「醤油チュルチュル」を「サイフォン」として出願しました。これは1949年に実用新案登録されており、逆止弁を持ち、ポンプ部にバネを使用している点以外は、現在の灯油ポンプと近い構造でした。

1952年には、丸山工業（現エムケー精工）が金属製のサイフォン式灯油ポンプ「ダイヤポンプ」を発売しました。「ダイヤポンプ」は手押しポンプと同様の構造で、ピストンを手で引き上げることで灯油を吸入する仕組みでした。現在、エムケー精工では同形式のポンプは製造しておらず、一般的なプラスチック製灯油ポンプを販売しています。

1963年には、金属製石油ポンプの日本工業規格として「JIS S 2028（石油燃焼器具用注油ポンプ）」が制定され、その後、プラスチック製石油ポンプの規格として「JIS S 2037（石油燃焼機器用注油ポンプ）」に変更されました。

その他

灯油ポンプはガソリンには使用できません。ガソリンをドラム缶から移す際には、手回し式やレバー式の金属製ポンプが使用されます。

また、1979年の映画『エイリアン』では、エイリアンの造形の一部として、日本製灯油ポンプが彩色され、頭部の両側に埋め込まれていました。

これらの情報から、石油ポンプは私たちの生活に深く根ざした製品であり、その進化の過程は技術の進歩とニーズの変化を反映していると言えるでしょう。

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