石田英一郎

石田英一郎：男爵から文化人類学者へ至る波瀾万丈の生涯

石田英一郎（1903-1968）は、日本の文化人類学・民族学に多大なる貢献を果たした著名な学者です。華族の家に生まれ、男爵の称号を有しながらも、激動の時代を生き抜き、思想的転換を遂げ、学問の世界で輝かしい功績を残しました。その生涯は、まさにドラマチックなものでした。

華族の出生と激動の青春

1903年、大阪府で男爵石田八弥の長男として生まれた石田は、恵まれた環境で育ちました。しかし、彼の青春時代は平穏なものではありませんでした。1925年に父の死去に伴い男爵を襲爵しますが、京都帝国大学経済学部在学中には京都学連事件に関与し、不敬罪と出版法違反の容疑で逮捕、投獄されます。この経験は、彼の人生観を大きく変える転機となりました。

獄中での思想転換と民俗学への傾倒

獄中で、石田は転向宣言こそしませんでしたが、唯物史観からの離脱を経験します。膨大な読書を通して、民俗学や文化人類学に深く傾倒していくのです。出獄後、彼は柳田国男を介して民俗学の研究会に参加、そこで岡正雄と出会い、布佐子と結婚。その後、ウィーン大学に留学し、歴史民族学を本格的に学ぶことになります。

学者としての活躍と多大な功績

1948年、石田は『河童駒引考』を出版、以後、法政大学、東京大学などで教鞭を執り、文化人類学教室の初代主任を務めました。東京大学ではアンデス学術調査団長も務め、1961年には「河童伝説」に関する研究で文学博士号を取得。定年退官後も、東北大学、埼玉大学などで教鞭をとり続けました。その研究領域は広く、河童伝説の比較民族学的研究からマヤ文明まで多岐に渡ります。1967年には『マヤ文明』で毎日出版文化賞を受賞するなど、その業績は高く評価されました。

大学紛争と晩年

1968年、多摩美術大学学長に就任した石田は、当時の激しい大学紛争の渦中に身を置きました。自身の経験に基づき、学生運動の鎮静化に尽力しましたが、過労のため同年11月に肺がんにより亡くなりました。没後には『石田英一郎全集』が刊行され、その学問的遺産は現在も多くの研究者に引き継がれています。

研究内容と影響

石田英一郎の研究は、民俗学、文化人類学の分野に多大な貢献をしました。彼は、日本の伝統文化や民俗信仰を、比較文化論的な視点から分析。河童伝説や桃太郎伝説といった日本の民話を通して、日本人の精神構造や文化の根源を探究しました。また、マヤ文明研究など、海外の文化にも造詣が深く、東西文化の比較研究にも積極的に取り組んでいました。彼の著作は、現在でも高く評価され、日本の文化人類学・民族学の発展に大きな影響を与え続けています。

家族・親族

石田英一郎の父は、工学博士の石田八弥。三菱鉱業研究所初代所長を務めた人物です。また、義兄は警視総監の横山助成、妻は布佐子で、松岡鼎の孫にあたります。大叔父には柳田国男がいます。こうした家系背景も、彼の学問的関心や人生観に影響を与えたと考えられます。

結論

石田英一郎の生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の学者の物語であり、同時に、日本の文化人類学・民族学の発展に貢献した重要な歴史の一部です。男爵の身分を捨て、獄中での苦難を乗り越え、民俗学・文化人類学の道を歩んだ彼の情熱と業績は、今後も多くの人々に学びと勇気を与え続けることでしょう。

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