砂漠 (交響的頌歌)

フェリシアン・ダヴィッド：交響的オード『砂漠』

フェリシアン・ダヴィッドが1844年に作曲した『砂漠』（フランス語: Le Désert）は、テノール独唱、男声合唱、そして管弦楽のために書かれた全3部からなる大規模な作品です。この作品は「交響的オード（頌歌）」という形式を採っており、時には交響詩としても分類されます。テキストはオーギュスト・コランが手がけました。

初演とその衝撃

1844年12月8日、パリ音楽院で行われた初演は、当時のフランス楽壇に大きな衝撃を与えました。交響的オードという新しい形式に加えて、それまであまり主題とされてこなかった東洋的なテーマを扱うという試みは極めて冒険的でしたが、聴衆はこれを驚きと感動をもって迎え入れました。その熱狂ぶりは尋常ではなく、演奏終了後も一時間以上にわたって多くの人々がホールに残り、受けた印象について語り合ったと伝えられています。この成功により、ダヴィッドは文字通り一夜にして有名となりました。音楽評論家のラヴォアは、この作品の規模が大きすぎず、楽章構成が巧みであり、傑作であるだけでなく非常に理解しやすい点を指摘しています。詩的な朗誦がまず主題を示し、その後の各部分が明快かつ的確に、聴く者の精神と想像力を深く揺さぶるからです。

成功の背景と影響

本作が当時のフランスで熱烈に受け入れられた背景にはいくつかの要因があります。一つは、オペラ全盛期において、1830年のベルリオーズ『幻想交響曲』以来、本格的な管弦楽作品の登場が待ち望まれていたことがあります。また、文学や美術の世界では既にオリエンタリズム（東方趣味）が広く浸透しており、その流れの中で音楽におけるオリエンタルな主題も自然に受け入れられました。初演に立ち会ったベルリオーズ自身も、ダヴィッドの自然描写と卓越したオーケストレーションを高く評価しています。

『砂漠』の評判は瞬く間に国際的なものとなり、初演後の1845年から1846年にかけて、ブリュッセル、ロンドン、ベルリン、ニューヨークといった欧米主要都市でも演奏されました。フランス国内でも各地で上演され、19世紀末頃までは比較的頻繁に演奏されたようです。

この作品が音楽史に与えた影響は少なくありません。その成功は、オペラに「地方色」、特に東方的な要素を取り込む動きを急速に促進しました。また、東洋を主題とする後世の作曲家たちが、多かれ少なかれこの作品から着想を得ていると言っても過言ではありません。さらに、様々な場面を描写する音画的な構成は、その後のフランスの作曲家たちが好んだ音画風の組曲、特に自然や風俗を描いた管弦楽やピアノのための作品の先駆となりました。サン＝サーンスの『アルジェリア組曲』や、ビゼー、マスネ、ドビュッシーといった作曲家たちの同形式の作品は、『砂漠』が切り開いたジャンルの系譜に位置づけられます。この影響はフランス国外、国民楽派の作曲家たちにも及びました。

一方で、この作品のパロディも生まれました。オッフェンバックは、理想主義的な詩人が砂漠を称賛する原作の内容を、砂漠の真ん中でカフェを恋しがり、気候を嘆くパリ市民シトルイヤールに変え、作品のパトスを流行歌や民謡で否定する風刺作品を創作しました。

作品構成と音楽

『砂漠』は以下の編成で演奏されます。

木管楽器: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2
金管楽器: ホルン4、トランペット2、コルネット2、トロンボーン3
打楽器: ティンパニ1、タンバリン
その他: 弦五部、テノール独唱、朗読、男声合唱（テノール、バス）

全体の演奏時間は約50分で、各部は以下のようになっています。

第1部: 約19分。広大で単調な砂漠の印象が描かれます。長く持続する和音や漠然とした旋律の断片によって、見事に砂漠の静寂が表現されます。その後、色彩豊かな隊商の行進、砂漠の嵐、嵐の後の静けさといった場面が続きます。

第2部: 約16分。隊商がオアシスで休息する場面が中心で、作品全体の中でも特に優れており、最もオリエンタルな雰囲気に満ちています。「アラビアの幻想」や「アルメたちの踊り」といった部分は、シリアやエジプトの実際の旋律に基づいていると言われます。特に「アルメたちの踊り」では、東方的な音楽でよく用いられるオーボエやクラリネットの装飾的な節回しが情趣豊かに響き、後のサン＝サーンス『サムソンとデリラ』のバッカナールやヴェルディ『アイーダ』のバレエ音楽といった著名な東方趣味作品の先駆けとなった可能性さえ感じさせます。

* 第3部: 約15分。この部の最も特徴的な部分は「日の出」に続く「ミュエザンの歌」でしょう。ミュエザンとは、イスラム教において寺院の高い場所から礼拝の時刻を告げる人のことですが、ここではテノール独唱によってその独特な歌が三度繰り返されます。これは、舞台音楽を含む西洋音楽において、この種の音楽が初めて登場した例の一つとされています。ラヴォアは、この「日の出」の描写を「フランスの描写音楽の中でも最秀の項」と称賛しています。

現代における評価

『ラルース世界音楽事典』は、ダヴィッドが『砂漠』の大成功によってフランスで音楽家としての地位を確立したことに言及しつつ、現代において彼が顧みられない状況は適切ではないと述べています。異国趣味の先駆者として、東洋の風景を楽曲の中で見事に表現した色彩効果に長けた作曲家であり、その音楽は優しく表情豊か、旋律の創意は独創的で、しっかりとした書法を持ち、巷間で言われるほど紋切り型な人物ではなかった、と高く評価しています。

フェリシアン・ダヴィッドの『砂漠』は、単なる一過性の流行ではなく、その後のフランス音楽における東方趣味や描写音楽の発展に重要な足跡を残した作品と言えるでしょう。

関連作品

同時期や後に作曲された同様の「交響的オード」としては、ダヴィッド自身の『クリストフ・コロン』（1847年）の他、エルネスト・レイエル『ル・セラム』（1850年）、ジョルジュ・ビゼー『ヴァスコ・ダ・ガマ』（1860年）、ヴィクトラン・ジョンシエール『海』（1881年）などがあります。

もう一度検索