硝酸鉄(III)

硝酸[鉄]：性質と用途

硝酸[鉄]は、鉄と硝酸の反応によって生成される化合物です。化学式はFe(NO3)3で表され、一般的には九水和物として存在します。九水和物は、無色に近い紫色を帯びた単斜晶系の結晶で、空気中で潮解性を持つため、褐色に変色することがあります。これは、加水分解によって一部が塩基性硝酸鉄となるためです。

一方、六水和物は、無色の立方晶系の結晶として得られます。九水和物と同様に潮解性があり、水、エタノール、アセトンによく溶けます。

九水和物:

[化学式]]: [Fe(H₂O)₆₃・3H₂O
CAS登録番号: 7782-61-8
外観: 無色に近い紫色の単斜晶系結晶
融点: 47.2℃
溶解度: 0℃で67.1g/100g水、25℃で87.2g/100g水（無水物換算）
性質: 潮解性、水に易溶
反応: 加熱により分解し、酸化鉄(III)と酸化窒素を生成。紫外線照射により分解し、酸素と硝酸鉄(II)を生成。

六水和物:

九水和物を発煙硝酸に溶解させ、五酸化二窒素を作用させる方法や、融解した九水和物に無水硝酸を加える方法によって合成されます。
融点: 35～40℃
性質: 潮解性、水、エタノール、アセトンに易溶

用途:

硝酸[鉄]は、その性質から様々な用途に用いられています。主な用途としては、以下のものが挙げられます。

媒染剤: 染色において、染料と繊維との結合を促進する役割を果たします。
絹の増量剤: 絹の重量を増やすために使用されます。
なめし剤: 皮革のなめし加工に用いられます。
分析試薬: 化学分析において、試薬として使用されます。

注意点:

硝酸[鉄]は潮解性が高いため、空気中の水分を吸収しやすく、保管には注意が必要です。また、加熱や紫外線照射により分解するため、適切な条件下で取り扱う必要があります。

参考文献:

近藤幸夫「硝酸鉄」『世界大百科事典』CD-ROM版、平凡社、1998年
「硝酸鉄」『岩波理化学辞典』第5版 CD-ROM版、岩波書店
* 化学便覧 基礎編II、改訂4版、8.8 溶解度、丸善、1993年

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