碁盤割制度

制度の概要

碁盤割制度は、江戸時代の加賀藩領、中でも越中国の山間部に位置する五箇山地域で行われた、特徴的な土地制度です。この制度では、村の百姓たちが耕作している田畑などの土地を、一定期間ごとにくじ引きなどの方法を用いて割り替えました。加賀藩の領内全体で広く行われていた「田地割」と呼ばれる制度と基本的に同じ性質を持っていましたが、特に山間部で田地の少ない五箇山地域では、「碁盤割」という呼称で呼ばれることが多かったとされています。

平野部で主に田んぼの割り替えが中心であったのに対し、五箇山地域のように多様な地形と様々な種類の土地が存在する山間部では、独自の、より複雑な割り替え手法が発達しました。この制度の実施や詳細を記録した多くの古文書が、五箇山の各村々に今日まで伝えられています。

歴史的背景と展開

土地の割替制度、すなわち碁盤割や田地割の慣習は、加賀藩が成立するより以前から、百姓たちの共同体における自主的な取り決めとして行われてきました。これが加賀藩によって公的な制度として確立されたのは、寛永19年（1642年）のことです。これは、当時の藩政において推進された農業改革である「改作法」の一環でもありました。

越中国における土地割替の記録として最も古い例は、慶長11年（1606年）に太田村で実施されたというものがあります。五箇山地域では、寛永11年（1634年）付けの小瀬村羽場家文書に見られる「内検地」や「田地ならし」といった記述が、碁盤割制度の前身にあたる慣習であったと考えられています。

1650年代に入り、加賀藩で改作法が積極的に進められる中で、寛永19年に「在々田地割之事」として制度化されると、五箇山の各地でも碁盤割が実施されるようになりました。制度の初期段階を示す記録としては、承応元年（1652年）の見座村、明暦3年（1657年）の下出村、寛文12年（1672年）の嶋村に残された記録などが知られています。

その後、五箇山では多くの碁盤割が繰り返されましたが、時代が経つにつれて、土地の割り替えに関する規定は次第に細かく、厳格に定められるようになっていきました。例えば、嶋村では17世紀の記録では土地の種類が「開津」と一括りに表現されていたものが、18世紀以降の記録では麻畑、桑原、栃原、草嶺、沼など、地目が細かく分類され、具体的な種類が記載されるよう変化しました。また、見座村の記録を比較しても、享保5年（1720年）と文化12年（1815年）の定書では、後者の方が条数が増加し、規定がより詳細になっていることが確認できます。

制度の終焉と古文書の価値

碁盤割制度に大きな転機が訪れたのは、明治維新後の明治元年（1868年）12月のことでした。この時、明治政府が「拝領地や社寺等の除地を除く村の土地は、全て百姓の所有地とする」という方針を明らかにしたことで、五箇山の土地所有制度はそれまでの仕組みから大きく変わりました。この変革に対応するため、五箇山の住民たちは土地の所有権を確定させるために、以下の三通りのいずれかの方法を選択しました。

その時点で各農民に割り当てられていた土地を、そのまま永久的な私有地とする。
改めて碁盤割を実施し、その結果に基づいて土地の所有者を決定する。
* 碁盤割とは異なる、「過不足」と呼ばれていた村独自の調整方法を用いて所有者を確定する。

このようにして、碁盤割制度はその歴史的な役割を終えることとなりました。しかし、碁盤割に関する古文書は、土地の所有関係や利用状況を明確に記した記録として、制度終了後も住民によって大切に保管されました。現在では、これらの古文書は江戸時代の農村における土地利用の実態や社会構造を知る上で、非常に貴重な歴史資料として研究に活用されています。

重要な関連資料：南大豆谷村土地文書

碁盤割制度を研究する上で特に重要視されているのが、利賀谷の南大豆谷集落（現在の南砺市利賀村大豆谷地区）に伝えられる「南大豆谷村土地文書」です。この文書は、主に文政元年（1818年）に実施された碁盤割に関する史料と、明治時代の地券に関する史料から構成されています。この土地文書の特筆すべき点は、通常は廃棄されてしまうような下書きなども含めて、記録がほぼ完全に保存されていることです。その完全性から、南大豆谷村土地文書は碁盤割制度の詳細を研究するための一級史料として高く評価されています。昭和61年（1986年）11月1日には旧利賀村の文化財に指定され、現在は南砺市に引き継がれて、その歴史的価値が保護・継承されています。

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