碧山日録

『碧山日録』は、室町時代の東福寺の僧侶、雲泉太極によって著された日記です。その名は、東福寺境内にあった太極の庵「碧山佳拠」に由来します。現存する写本は尊経閣文庫に所蔵されています。

記述は長禄3年（1459年）から応仁2年（1468年）までの期間に及びますが、寛正元年、文正元年（1466年）、応仁2年の記述は欠落しています。しかし、長禄から応仁年間にかけての社会情勢を伝える史料が少ない中で、この日記は非常に貴重な情報源となっています。特に、筆者である太極の立場から、当時の寺院運営、僧侶の仕事や生活に関する記述は、室町時代後期を研究する上で重要な手がかりとなります。

日記の内容は、太極自身の個人的な生活や出来事と、僧侶としての渉外活動などの公務が中心です。また、古代の名僧の伝記や語録の抜粋、教典に対する太極自身の解釈や考証、絵画や書物の鑑賞に関する記述も含まれています。さらに、詩作の覚書としても活用されていたことが伺えます。

『碧山日録』には、文正、応仁の頃の社会の混乱した様子が生き生きと描かれています。当時台頭してきた足軽や、下層市民に関する記述が豊富であり、特に山城国木幡郷の郷民の活動や、清水寺の勧進僧が民衆に施した救済に関する記述は注目に値します。

各記事の末尾には「日録云」と題して、記事の要点の摘出と、太極自身による記事に対する感想が付されています。これらの論評には、『史記』をはじめとする古文書からの影響が見られます。

太極の文体は非常に熟達しており、鮮明な個性と独特の雰囲気を醸し出しています。しかし、それゆえに難解な部分も多く、太極自身の経歴に不明な点が多いことも、その難解さに拍車をかけています。

参考文献
『世界大百科事典』 平凡社
『国史大辞典』
ドナルド・キーン 『足利義政-日本美の発見』
石田晴男 『戦争の日本史 9巻・応仁・文明の乱』

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