磁気単極子

磁気単極子（磁気モノポール）とは

磁気単極子、または磁気モノポールとは、単一の磁荷のみを持つ、すなわちN極またはS極だけを持つ粒子のことです。通常の磁石はN極とS極が対になった磁気双極子であるため、磁気単極子の存在は、磁気に関する根本的な問いを投げかけます。

概要

通常の磁石は、N極とS極が必ず対になって存在します。これは、磁石を分割しても、N極とS極がそれぞれ現れるだけで、単独のN極やS極を取り出すことができないことを意味します。電磁石の場合も同様で、電流が流れるコイルを分割しても、巻き数が半分になった電磁石ができるだけです。永久磁石も、構成する原子が電磁石と同様の働きをしているため、原理は同じです。この現象は、マクスウェルの方程式によって記述される古典電磁気学の基礎となっています。

一方、電気にはプラスとマイナスの電荷が存在し、これらは単独で取り出すことができます。これは、電気の根源がプラスの陽子とマイナスの電子に由来するためです。古典電磁気学では、電気と磁気の関係は対称であり、その関係を逆転させることが可能です。通常、コイルを流れる電気によって磁場が発生しますが、これは円周上を運動する電子によって磁場が生じることと同じです。このモデルを、磁気単極子が円周上を周回することで電場が生じるというモデルに置き換えることができます。つまり、マクスウェルの方程式は、磁気単極子の存在を許容するように容易に修正できます。

1931年、ディラックは量子力学においても磁気単極子を考えることが可能であることを示し、さらに、その条件から電荷と磁荷の最小単位の存在が導かれることを明らかにしました。この発見により、磁気単極子は一躍注目を集めることとなりました。

2013年、Sergio SeveriniとAlessandro Settimiは、マクスウェルの第二方程式に新たな解釈を与え、磁気誘導場との関連性に着目しました。彼らは、自由空間を伝播する電磁場の発生源として、荷電粒子と非相対論的粒子からなる系の物理的側面を考察しました。特に、全運動量の保存と磁気誘導場のゼロ発散条件との関連を詳細に調査しました。この研究は、空間全体の磁気誘導場のゼロ発散特性の必要条件が、系の全運動量の保存から直接導かれるという新しい視点を提示しました。しかし、この研究は、適切な対称性仮説の下でのみ理論的に妥当である磁気単極子の存在、または少なくとも観測可能性に関するいくつかの疑問を未解決のまま残しました。

陽子崩壊の触媒作用

大統一理論においては、クォークとレプトンは本来同じ粒子の異なる状態であり、インフレーションの際の相転移によって分化したと考えられています。そのため、クォークとレプトンは相互に変換可能であるとされます。陽子内のクォークがレプトンに変化すると、バリオン数が保存されなくなり、陽子崩壊が発生します。しかし、陽子の寿命が非常に長いことから、クォークからレプトンへの変化は極めて低い確率でしか起こりません。

磁気単極子は、インフレーション以前のクォークとレプトンが分化する前の空間の位相欠陥であると考えられています。そのため、磁気単極子の中心部付近では、クォークとレプトンは分化することができず、分化前の状態に戻ってしまいます。そこから通常空間に戻った粒子は、クォークにもレプトンにも変化する可能性があります。その結果、陽子や中性子のクォークが磁気単極子の磁力によって引き寄せられ、中心部付近を通過してレプトンに変化すると、陽子崩壊が発生します。磁気単極子自身は、外部からのクォークを変換するだけで不変であるため、触媒と見なすことができます。この現象は、ルバコフ効果と呼ばれることもあります。

発見、発明の試み

スーパーカミオカンデでは、大統一理論の検証の一環として、磁気単極子の探索が行われています。

マクスウェルの方程式

ディラックによれば、「磁気単極子の存在」を仮定した場合、マクスウェルの方程式は以下のようになります。

(数式は省略)

SFにおける磁気単極子

磁気単極子は、SF作品において様々な形で登場します。例えば、磁場の中に磁気単極子を閉じ込め、振動させることで燃料物質の陽子崩壊を誘発し、エネルギー源として利用するというアイデアがあります。

ロバート・L・フォワードの『竜の卵』では、磁気単極子と原子核が結合した高密度の物質「モノポリウム」が登場し、その重力場で中性子星の潮汐力から人間を守るというアイデアが詳細に描写されています。山本弘の小説『サイバーナイト』では、これとほぼ同じ原理であるモノポール反応炉が、作中のテクノロジーに必要な存在として描かれています。

その他、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』シリーズのOVA『YAMATO2520』では動力源としてモノポールエンジンが、ゲーム『ROBOTICS;NOTES』では「モノポール」という物体が登場します。特撮テレビ番組『ウルトラマンガイア』では、体内に磁気単極子N極を持つ怪獣が登場します。

参考文献

小谷太郎 (2009年7月28日). “磁荷のある電磁気学”. 東京工業大学.
“N極・S極だけをもつ磁石・磁気モノポールの発見” (PDF). 首都大学東京 (2012年2月27日).

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