磯の源太 抱寝の長脇差

『磯の源太・抱寝の長脇差』は、1932年製作の日本の長篇サイレント映画。山中貞雄監督デビュー作であり、長谷川伸戯曲『源太時雨』原作の股旅時代劇である。フィルム全篇は現存せず、一部断片のみが残る。

物語は、渡世人・磯の源太が義理からヤクザ抗争に加わる中で、幼馴染お露と、彼女に想いを寄せる勘太郎との三角関係を描く。感情はタイトル字幕で表現。敵対する宮久保一家用心棒・小田切の横暴に対し、源太は勘太郎にお露との道を勧め、敵討ちを決意。だが勘太郎が先に討たれ、源太は剣戟を排した山中演出の乱闘の末、仇を討つ。最期は力尽きた勘太郎とお露の手を握らせ、源太は立ち去る。

本作原作の長谷川伸戯曲は、以前にも映画化されていた。本作は1932年2月4日、新興キネマ配給で公開。製作は嵐寛寿郎プロダクション。

公開当時、製作元作品はB級映画と見なされがちで、山中貞雄も無名だった。だが、評論家・岸松雄が『キネマ旬報』で絶賛、山中の才能は広く知られた。

主演の嵐寛寿郎は、山中監督の非凡さを証言する。監督起用時に女形について教えを請うたこと。ラストシーン撮影で数十人に土手を何度も走らせ、疲労した姿を捉えた独特の手法。源太の背中、倒れる役者たち、夕日に光る長脇差というラストカットは、監督第一作にして確立されていた山中貞雄の優れた映像感覚を示す。

本作は興行的に成功しなかったが、評論家から高く評価され、昭和7年度ベストテンで8位に入った。嵐寛寿郎は興行結果に関わらず、山中の才能を見込み次作監督も任せた。

主なスタッフ・キャストは、監督・脚本：山中貞雄、原作：長谷川伸、撮影：藤井春美、主演：嵐寛寿郎、市川寿三郎、松浦築枝など。

1960年には松竹でリメイク版が製作されている。

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