社会主義の20世紀

「社会主義の20世紀」は、1990年の4月から12月にかけて、NHK総合テレビのドキュメンタリー枠『NHKスペシャル』にて月1回のペースで放送された、全9回の大型連続企画です。

制作の背景とテーマ

番組が制作・放送された1989年から1990年にかけては、世界史が大きく転換する激動の時代でした。ベルリンの壁崩壊や東欧諸国における民主化運動の波及、そして東西ドイツの統一といった、長年続いた冷戦構造の崩壊を象徴する出来事が立て続けに起こっていたのです。こうした劇的な変化を背景に、20世紀の世界を二つの陣営に分かち合ったイデオロギーの一つである「社会主義」に焦点を当て、「社会主義はなぜその歴史的な役割を終えることになったのか」という問いを主軸として、その実像に迫ることを試みました。

番組の内容と構成

本シリーズは、プロローグ編1回と本編8回の合計9回で構成されており、主にソビエト連邦が推進した「ソ連型社会主義」を深く掘り下げています。その成立過程から発展、そして各国の具体的な状況や、内包していた問題点などを多角的に検証しました。対象となったのは、東欧諸国のほか、ソ連の影響を強く受けて社会主義国家を建設したキューバやベトナムです。一方で、ソ連とは異なる独自の社会主義体制を築いた中華人民共和国や朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）は、番組の主な焦点とはなりませんでした。

制作手法と反響

番組の表現形式には、キャスターや司会者を置かず、徹底してドキュメンタリーの手法が採用されています。当時の貴重な記録映像を豊富に使用し、現地での綿密な取材、そして歴史的な出来事に関わった当事者への直接的なインタビュー証言を中心に構成されました。これにナレーションを加えて展開することで、重厚かつ骨太な内容の番組として高い評価を得ました。放送当時の社会情勢、すなわち東西冷戦の終結へと向かう世界的な流れと相まって、視聴者の関心は非常に高く、大きな反響を呼び起こしました。特に、「社会主義の没落と失敗」という番組が示唆した内容に対しては、日本共産党から反論の趣旨を含む書籍が出版されるなど、論争も巻き起こすほどでした。

主な登場人物

シリーズには、当時の様々な立場の人々が登場し、自らの言葉で証言を行っています。主な出演者（登場順、敬称略）には、歴史家 ユーリ・アファナーシェフ（プロローグ）、ベルリンの壁崩壊の発表を行ったSED政治局員 ギュンター・シャボフスキー（第1回）、歴史家 ロイ・メドヴェージェフ（第3回、第8回）、ポーランド人民共和国の最高指導者 ヴォイチェフ・ヤルゼルスキ 大統領と独立自主管理労働組合「連帯」議長 レフ・ワレサ（第5回）、チェコスロバキア共産党第一書記 アレクサンデル・ドゥプチェク（第6回）、ベトナム社会主義共和国の軍事指導者 ヴォー・グエン・ザップ 将軍（第7回）などがいます。

テーマ音楽

番組のテーマ曲には、イタリアの作曲家 オットリーノ・レスピーギ が作曲した「変容作品169」が用いられました。

現在の視聴方法

本シリーズは、現在までにDVDやVHSといったパッケージソフトとしては販売されていません。しかし、全国各地にあるNHK放送局に設置されている NHK番組公開ライブラリー に足を運べば、そこで無償で視聴することが可能です。ライブラリー内の映像端末では、「NHKスペシャル」の中の「大型・シリーズ番組」として分類されています。なお、インターネットを通じて番組を視聴できるNHKオンデマンドでは、現在のところこのシリーズは配信されていません。

社会主義の20世紀