社会人大学院

社会人大学院（しゃかいじんだいがくいん）

社会人大学院とは、既存の大学院が、働く人々や既に社会経験を積んだ人々が学びやすいように、特別な制度や環境を整えたものです。通常の大学院では、学部を卒業したばかりの学生がフルタイムで学ぶことを主に想定していますが、社会人大学院は、仕事や家庭などとの両立を前提とした設計になっている点が大きな特徴です。入学選考においては、一定期間の社会経験などを考慮した「社会人入試」を設けていることが多く、通常の大学院入試とは異なる選抜方法が採用される場合があります。社会人大学院を修了すれば、現役の大学院生と同様に、修士、博士、または専門職の学位が授与されます。

概要と背景

大学側がこうした社会人向けの大学院プログラムの設置や拡充に積極的になった背景には、いくつかの要因があります。一つは、近年進む少子化により、18歳人口が減少し、大学への入学を希望する若年層の絶対数が減少しているという時代の流れです。大学側はこうした状況を受け、現役で働く人、一度社会に出た後で学び直しを希望する人、退職者、あるいは主婦（主夫）層など、多様な社会人を新たな学び手として迎え入れようとしています。また、大学院に在籍する学生の定員充足率は、大学運営における予算配分の上でも重要な指標の一つとされています。そのため、学部を卒業してそのまま進学する学生だけでなく、社会人にも広く大学院の門戸を開くことで、定員確保を目指す必要性が生じています。

一方、社会人にとっても、大学院で学ぶことには大きな利点があります。特にMBA（経営学修士）のような専門職大学院などでは、現役のビジネスパーソンが自身の専門知識を深めたり、高度な経営スキルを習得したりすることで、実務に活かし、直接的なキャリアアップを目指すケースが目立ちます。また、キャリアアップとは異なる動機として、退職された方や主婦（主夫）層の中には、大学院が提供する高度な知的なリソースを活用し、長年の知的関心や探求心を満たしたいと考える人も少なくありません。このような多様な社会人の学習ニーズに応えるため、大学側には、学習環境や教育プログラムのさらなる充実が求められています。

社会人大学院は、一般の大学院と比較して、修了までの期間が短いコースが設定されていたり、必ずしも大卒資格を必須とせず、中学校・高校卒業後や専門学校卒業者などにも門戸が開かれていたり、あるいは筆記試験を課さない入試制度があったりすることから、「学歴ロンダリング」に利用されやすいとの指摘が一部にあります。しかし、学歴を改善したい、あるいはより高度な学びを追求したいという向上心に基づく努力の結果として、その取り組み自体を評価すべきだという見方も存在します。

学習環境と制度

社会人が大学院を受験する際には、学部を卒業したばかりの学生とは異なる、社会人向けの特別な選抜方法が用意されていることが多いです。例えば、現役生には外国語の筆記試験が課される一方、社会人受験生には外国語試験が免除され、代わりにこれまでの社会経験を問う小論文や、学習意欲・目的などを確認する面接のみで合否が判断されるケースなどがあります。

大学院で提供される教育内容（講義、演習、研究指導など）は、基本的に現役の大学院生向けのものと同等であり、専門的な知識や研究方法を体系的に学ぶことができます。ただし、社会人の特定のニーズに応えるため、ビジネスや公共政策、心理、教育など、実務に直結するような専門的な科目や、特定の分野に特化した特別なコースが設置されている場合もあります。

そして何より、社会人大学院では、社会人が学業と仕事や家庭などを両立しやすいよう、学習環境に様々な配慮がなされている点が大きな特徴です。具体的には、勤務を終えた後でも通学できるよう、夕方から夜間にかけて講義や演習が行われたり（いわゆる夜間大学院形式）、それに合わせて図書館や自習室などの付属施設も開館時間が延長されたりしています。さらに、都心部の主要駅の近くなど、通いやすい場所に「サテライトキャンパス」を設け、そこで授業を実施することで、社会人学生の通学における利便性を高めている大学院も見られます。

社会人大学院が設置されている分野は多岐にわたり、経済、法、国際関係、社会福祉、公共政策、心理、教育、医療など、幅広い研究科で学びの機会が提供されています。多くの大学が社会人向けのプログラムを設置しており、学びたい分野や目的に合わせて選択肢が豊富に存在します。

社会人大学院は、個人のキャリア形成、専門性の深化、あるいは純粋な知的探求心の充足といった、多様な目的を持つ社会人に対して、質の高い学びを提供する重要な機会となっています。

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