祐泉寺

祐泉寺は、岐阜県美濃加茂市太田本町に位置する臨済宗妙心寺派の寺院で、龍興山という山号を持ちます。美濃三十三観音霊場の二十七番札所、中濃八十八ヶ所霊場の七十番札所としても知られています。この寺は、文明6年（1474年）に東陽英朝禅師がこの地に草庵を結んだことに始まります。

観音像の伝説と火伏の寺

祐泉寺には、東陽英朝の夢のお告げにより、木曽川から引き上げられた聖観音像が祀られています。この観音像は、かつて木曽川の松ヶ瀬に沈んでいたとされ、引き上げられた後、瀧場大悲閣として境内に祀られました。近隣で大火が起きた際、この観音像が祀られている堂宇まで火が迫った時、不思議と火勢が衰えて鎮火したという逸話から、霊験あらたかな観音像として「滝場観音」とも呼ばれるようになりました。

寺の歴史

永正年間（1504年～1521年）には、同じく東陽英朝が開山した大仙寺の末寺となり、祐川庵と称して寺領の管理を行いました。寛政5年（1628年）には、徹禅が梅龍寺十世の廣雲玄博を勧請開山し、寺号を祐泉寺と改めました。明治時代には梅龍寺から独立し、妙心寺の直末寺となりました。旧中山道に面しており、木曽川が眼下に流れる風光明媚な場所に位置しています。

境内と文化財

境内には、山門、本堂、庫裡、鐘楼、弘法堂などが建ち並びます。寺の塀沿いには、役行者、庚申、四国巡礼、播隆六字名号碑、孝心助一などの碑が並んでいます。また、旧小松屋吉田家住宅や旧太田脇本陣林家住宅、太田宿中山道会館など、歴史的な建造物が周辺に点在しています。

著名人の歌碑と墓

祐泉寺には、多くの著名人の足跡が残されています。

北原白秋の歌碑: 寺の入口には、北原白秋が飛騨・木曽の旅の途中で詠んだ歌「細葉樫　秋雨ふれ里　うち見やる　石燈籠の　おお苔のいろ」の歌碑があります。
松尾芭蕉の句碑: 庫裡の横には、林冬甫(中山道太田宿脇本陣三代目の林由興)が松尾芭蕉の追善のために建立した句碑「春なりや　名もなき山の　朝かすみ」があります。
坪内逍遥の歌碑: 鐘楼の近くには、坪内逍遥の「椿の歌」の碑があります。逍遥は、太田代官所の手代であった坪内平之進の三男として、太田で生まれました。碑には、「やま椿さけるを見れば　いにしえの　幼きときを　神の代思ふ」という歌が刻まれています。後に「いにしへを」を「ふるさとを」と訂正しましたが、碑は色紙のまま建てられています。
播隆上人の墓: 稲荷堂の左には、槍ヶ岳を開いた播隆上人の墓と歌碑があります。播隆上人は、美濃の各地で修行を行い、晩年は可児市兼山の浄音寺で布教活動を行いました。祐泉寺には、墓の他に「世の人の　恐れ憚る槍の穂も　やがて登らん　われ始めて」という歌碑と、林市左衛門の娘が描いたとされる肖像画があります。
志賀重昂の墓: 地理学者である志賀重昂の墓もあります。志賀重昂は、加茂郡教育委員会に招かれて講演後、木曽川を下り、太田から犬山までの風景を「日本ライン」と名付けました。墓の台座には、イギリスとブラジルの地理学協会から贈られた記念石が嵌め込まれています。
西園寺公望の石標: 西園寺公望の石標も境内にあります。


祐泉寺は、歴史と文化が深く根付いた寺院であり、訪れる人々に多くの感動を与えます。豊かな自然と歴史的な文化財に触れ、静かで心落ち着く時間を過ごすことができるでしょう。

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