穢れ

穢れ：忌み嫌われた不浄と、社会秩序の維持

「穢れ」とは、死、疫病、性交などによって生じる、忌み嫌われる不浄な状態です。古来より、穢れは共同体に異常をもたらすと考えられ、厳しく避けられてきました。現代においても、様々な宗教儀式や慣習にその名残が見られます。

一般的な穢れ観念

手や体を洗う行為は、目に見える汚れを落とすだけでなく、「穢れを祓う」ことでもあると捉えられてきました。これは、自然科学的な説明とは異なる、独自の概念体系です。

穢れとされる対象は多岐に渡ります。死、病気、出産、性交、女性、怪我、排泄などが代表的で、これらに関わるものも穢れとみなされることがあります。特に性交や出産は、女性の身体に付着する血を介して穢れが伝播すると考えられ、女性の身体そのものが穢れと結び付けられるケースもありました。これは、他宗教の「原罪」概念に通じるものと言えるでしょう。

さらに、自らの共同体以外の人々（外国人、異民族など）、特定の血筋や身分の人々（被差別部落など）、特定の職業（芸能、金融業など）、体の一部（左手など）も穢れとされることがありました。しかし、これらの穢れは絶対的なものではなく、状況や行為によってその程度は変化しました。例えば、ある動物に触れるのは許されるが、食べてはいけないといった具合です。

宗教における穢れ

穢れの観念は、民間信仰だけでなく、多くの有力宗教にも見られます。ユダヤ教では古くから様々な穢れの規定があり、食のタブーなどを通してイスラム教にも影響を与えています。バラモン教の穢れ観念はヒンドゥー教に、仏教にも影響を与えており、月経や女性を穢れとする考え方は、古代インドの思想に由来するものです。

「穢れ」に対立する概念は「清浄」または「神聖」です。しかし、両者は共にタブーとして避けられる対象であり、必ずしも明確に区別されているわけではありません。例えば、ユダヤ教では動物の血は「命」であるため食べることが禁じられていますが、これは神聖さゆえであり、穢れによるものではありません。

日本における穢れ

日本においても、仏教や神道では穢れは重要な概念でした。死、疫病、出産、月経、犯罪などによって穢れた状態の人は、祭事への参加や宮廷への出入りなどが制限されました。戦後の民俗学では、「ケガレ」を「気枯れ」と解釈し、祭などの儀式で「ケ」を回復するという考え方も提示されています。

日本[[神話]]においても、穢れの概念は重要な役割を果たしています。イザナギの黄泉の国からの帰還と禊ぎの物語は、穢れの除去と神々の誕生を象徴的に表現しています。スサノオの行動も、天つ[[罪・国つ罪]]として描かれていますが、後の禊ぎによって清められました。

神道と仏教における穢れの差異

神道と仏教では、死に対する考え方に違いがあります。神道では死や血を穢れとしますが、仏教では必ずしもそうではありません。葬儀なども、神道では各家で行われるのに対し、仏教では寺院で行われることもあります。これは、神聖なものの捉え方の違いに由来します。神道では、死者は清められ、特定の死者は神として祀られることもあります。

穢れ観念の起源と発展

平安時代に日本に伝わった仏教は、穢れ観念の普及に大きく貢献しました。特に、高僧は穢れに接する可能性の高い行事への参加を避け、下級僧侶が担当するようになりました。日本独自の穢れの概念は、神道の思想や律令法の服喪の概念とも複雑に絡み合いながら発展していきました。

穢れと社会構造

学者の研究によれば、被差別民と天皇との間には密接な関係があったとされています。天皇は「清め」の職能の最高者と見なされることもあります。また、祓いは本来、穢れを除去するものではなく、神に対する謝罪の意味合いも持っていました。

琉球神道

琉球神道には、日本の神道に見られるような血や死の穢れの概念が弱く、これは熊野信仰との関連が指摘されています。

結論

「穢れ」という概念は、時代や文化、宗教によって多様な解釈をされてきました。しかし、その本質は、社会秩序の維持や、人々の精神的な安定に深く関わっていると言えるでしょう。この概念を理解することは、歴史、文化、宗教を理解する上で非常に重要です。

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