祖国に対する信者のつとめ

祖国に対する信者のつとめ

「祖国に対する信者のつとめ」とは、1936年5月26日に当時のローマ教皇庁布教聖省が、日本のカトリック教会に向けて発出した「第一聖省訓令」の中で示された指針です。この訓令では、神社への参拝を「愛国心と忠誠心の表現である」と位置づけ、靖国神社への参拝も認めていました。この方針は、1951年11月27日付の「第二聖省訓令」によっても再確認されており、教皇庁の意図的な見解であったことがわかります。

指針の内容

この指針の結論部分では、カトリック信者の祖国に対する義務について、具体的な行動指針が示されています。

指針を巡る議論

このローマ教皇庁福音宣教省の公式見解については、その現代における有効性を巡り、日本のカトリック教会内部で議論が続いています。

日本カトリック司教協議会（カトリック中央協議会）の見解

カトリック中央協議会は、教皇庁が1936年に出した「第一聖省訓令」において、靖国神社への参拝を「愛国心と忠誠心の表現」と認めた点を指摘しています。そして、この見解に対する修正は現在までなされていないとしています。しかし同時に、この見解が出された当時の日本が、軍国主義国家であり、軍や文部省が神社参拝を「宗教的慣行ではなく、愛国心と忠誠を表すもの」としていた状況を考慮する必要があるとしています。また、教会が信者を軍国主義政府の迫害から守るために苦悩した歴史も踏まえるべきだと述べています。

さらに、この指針が、カトリック信者の学生が靖国神社への参拝を拒否した事件（上智大生靖国神社参拝拒否事件）を契機に、教皇庁が対応を指導したものである点を指摘しています。今日、国家神道は存在せず、神社参拝は国民の義務ではないという状況の変化から、この指針をそのまま適用することはできないという見解を示しています。

日本カトリック司教団の見解

日本のカトリック教会を指導する日本カトリック司教団も、この指針について、戦後の日本国憲法制定、国家神道の解体、靖国神社の一宗教法人化、そして教会自身の第2バチカン公会議を経て、当時の指針を現代にそのまま適用することはできないという考えを表明しています。

まとめ

「祖国に対する信者のつとめ」という指針は、当時の時代背景と、カトリック教会が置かれた特殊な状況下で出されたものです。現代においては、社会状況や教会の考え方が大きく変化しており、この指針をそのまま適用することは難しいと言えるでしょう。この問題は、現代における宗教と国家の関係を考える上で、重要な示唆を与えています。

参考文献

『信教の自由と政教分離』(日本カトリック司教協議会 社会司教委員会・編、カトリック中央協議会発行、2007年)

関連情報

キリスト教
キリスト教徒

外部リンク

カトリック中央協議会

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